あなたが勇者様(ファンタジー)
種別:即興
お題:今年の勇者
制限時間:15分+α(微修正あり)
「勇者様、あなたが今年の勇者様……!」
目覚めた世界で女の子を助けたら、勇者様扱いされた。
なんでもこの世界は魔王に圧政を強いられているらしく、国や民衆がみんな揃って俺を勇者と持ち上げてくれた。
……いや、いわゆる転生モノってシチュエーションですよね、これ。
(危険なこと、嫌なんだけどなぁ)
そうは想ったが、身体も力も知識も、この世界の誰にも負けないんじゃないかってくらい圧倒的なものを持っていた。
転生したことで、本当に勇者の力を持ってしまったのか。
そうなれば、いけるんじゃないかって想ってしまうのが、俺の性格の悪いところ。
ただ、そうして始めた旅の中で、たくさんの仲間や友人と知り合えたのは、本当に楽しかった。
転生前の、どこか卑屈だった暮らしが、嘘のような世界。
(苦難の末に魔物を倒し、みんなと祝杯を挙げて、笑顔に囲まれる)
――でも、そんな楽しい旅は、魔王城で一変した。
最後の城は、やっぱり、誰にも倒されない魔王の膝元。
一人、また一人と、その力と命を散らしていって。
――最初から、俺を慕ってくれた女の子も、この腕の中で息絶えて。
「……っ!」
怒りに燃える俺の剣が、魔王の胸元を貫き。
「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉっ!?」
悪夢の元凶を、俺は、この手でようやく打ち倒すことができた……!
「……ご、ふっ……」
だけど、俺の命も、もうダメみたいだった。
残念なことに、この世界は蘇生の魔法だけは、設定されていないみたいで。
(まぁ。がんばった、よな)
この世界でも、痛みや苦しさは、元の世界と変わらないんだな。
赤く染まる視界に、やるだけのことはやったさ……なんて、自分勝手に納得していると。
「……えっ?」
信じられないものが、眼に映る。
「すさまじい爪痕。まぁ、なんて恐ろしい」
口元に手を当て、俺と出会った時の同じ姿の少女は、周囲を見回して驚く。
だが……ゆっくりと俺に合わせた眼と、映し出される表情は、一度も見たことがないもの。
「今回は、とてもよい出来でしたわ。よく、太ってくれましたもの」
ぺろり、と下を舐める彼女の眼は……まるで、家畜を見るような、冷たいものだった。
「――魔王様。今年の勇者の出来は、いかがでしたか?」
衝撃を受ける俺の耳に、響き渡る、魔王と女の笑い声。
……あぁ。なんて、ことだ。
この世界は、誰も、たすけなんか求めてなかった。
だって、ここは、魔王によって造られた、遊技場。
そこに放り込まれた俺は、彼を、楽しませるための……。
……。
…。
。
「さぁ。次は、あなたかしら?」