喜び
やはりそうだった。
彼女は、主様そっくりだった…。
産まれた時も、死ぬ時も……。
「……おや、珍しいのぅ…。其方が表に出るなんて、300年前以来かのぅ…。」
穏やかな口調で老人が話しかけてくる。彼は櫻音の長老。霊術を極めきった結果、1000歳を超える長寿のジジイになってしまった。彼曰く、死んでも死にきれないのは困る、らしい。付喪神にも「死」という概念はある。普通の人間よりは遥かに長い寿命だが、私の本体である刀は、いつか、錆びて壊れてしまう。本体の死は、付喪神の死。怖い、というわけではないが、死んでも死にきれない、なんていうジジイが、少し羨ましかったりする。
「別に…。で、話変わるけど…産まれたの?『輪廻転生の娘』は。」
「ん~…どうじゃろうなぁ…。儂は盲目じゃからのぅ…。お主が自分で見てきた方が分かるじゃろ。お主が一番、『輪廻転生の娘』をよく理解しておるからのぅ……。」
「そう、なら、お言葉に甘えて見に行くことにするわ。ジジイ、部屋は何処?」
「神霊の部屋じゃ。」
「ん、ありがと。」
ジジイに軽く礼をし、私は神霊の部屋に向かう。
『輪廻転生の娘』。櫻音一家に伝わるちょっとした伝説。櫻音一家の秘桜、『妖櫻』と『冥櫻』を生み出したとされる少女(私の一番最初の主様。櫻音一家では『創造者』などと呼ばれている)の生まれ変わりのことを指す。300年に一度、産まれる少女。その少女を、櫻音一家の者は『輪廻転生の娘』と呼ぶ。なぜ300年に一度なのか。長老曰く、主様の遺言に、「輪廻転生によって、私の未練は消えるだろう」とあったから、らしい。
しかし、『輪廻転生の娘』は、長命の私でも見たことが無い。今まで、『輪廻転生の娘』は3人産まれたが、どの少女も、主様に似ていなかった。本物の『輪廻転生の娘』が現れるまで、主様の遺言に従い続けると誓った私は、どの少女にも従わず、私を握ろうとする手を振り払った。そして、私は仕舞われた。
だが、今回の『輪廻転生の娘』は本物かもしれない。ようやく、主様に会えるのかもしれない。私の胸の奥が急に熱くなった。感情、というものを理解できない私は、軽く首を振って胸の熱さを打ち消した。
「入るぞ、人間。」
入る前に声をかけた途端、ざわめく室内。そりゃそうだろう。目覚めないとされていた私がこうして姿を現し、少女の元を訪れたのだから。
部屋に入ると、母親の腕に抱かれ、安らかに眠る赤子。赤子の風貌は、私の探し求めていた主様そっくりだ。霊力の波動も、昔の私がずっと感じていたものそのものだ。また、胸の奥が熱くなる感覚がする。だが、これを打ち消してはならない、残しておけ、と聞こえたような気がしたので、そのままにしておく。
ぱち…と赤子が目を覚ます。私を見ると、さも嬉しそうにきゃっきゃと笑った。私もそっと微笑み返した。そして、赤子に近寄り、小さな小さな手を取り
「おかえりなさいませ、主様。」
小さく、嬉しさを含んだ声で、呟いた。




