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物思いにふける付喪神

私の名前は、翡鞘翠蓮。翡翠で出来た鞘に、滅亡を司る睡蓮の花を意味する。この名前は、私の主から貰ったものだ。決して、忘れはしない。


私は、主様以外には扱えない。いや、扱わせないようにしている。何故なら、主様の遺言に背くような事はしたくないからだ。

主様はおっしゃった。「私の身が尽きたとしても、輪廻転生をするまでは、誰にも従うな。生まれ変わったら、いっぱい振り回してやるから」と。私は人の心を知らない。知る事が出来ない。主様以外の他人とは、関わったことがなかったから。だから、喜べばいいのか、悲しめばいいのか、分からなかった。


主様は、大変聡明で、美しく、儚かった。己の霊力の高さが、周りの他人を不幸に巻き込んでしまうから、という理由で自害されてしまった。主様は、若かった。まだ三十路にも満たなかった。そんな主様が不憫で仕方が無かった。実体のなかった私は、主様に声をかけることも、慰めることも、出来なかった。


硝子箱の上で、物思いにふけていると、邸から、可愛らしい赤子の声が聴こえてきた。何十回も聞いてきた、赤子の鳴き声。だが、何故か引っ掛かる。何処かで聴いたことのある、元気だが、儚げのある声。ああ、間違いない。私に狂いがなければ、この声はおそらく……。


私は待ちきれず、硝子箱を叩き割り、中の刀を掴んで廊下へ飛び出した。

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