if 桃太郎
「おばあさん、きびだんごを作ってくれないか?」
桃から産まれた桃太郎が立派な少年になって鬼退治に行く朝。おばあさんは彼にそう言われた。
「きびだんご、かい?」
「そうだよ。鬼退治にはきびだんごがないと」
「分かったよ。ちょっと待っておくれ」
おばあさんは、おじいさんを連れて調理場に移動します。
「じいさんや、きびだんごって何かね?」
「さあ、儂は知らん。団子の種類なんじゃねえか?」
「そうかい。それなら色んな団子を持たせれば大丈夫だね」
おばあさんは団子を作り、桃太郎のもとへ戻ります。
「お待たせ桃太郎。はい、きびだんごだよ」
「ありがとう、おばあさん…………?」
「どうしたんだい?」
「おばあさん、きびだんごに団子串なんて刺さってたっけ? というか、明らかにみたらし団子なんだけど」
「みたらし団子だけじゃないよ。あんこに胡麻に三色に色々あるよ」
「嬉しいけど。きびだんごってそもそも串団子じゃないよ。何かこう、餅を丸めた感じの」
「それは団子じゃないのかい?」
「そうだけど、そうじゃなくて。何か餅っぽいものだよ」
「分かったよ。ちょっと待っておくれ」
おばあさんは、再びおじいさんを連れて調理場に移動します。
「きびだんごは餅っぽいやつだそうだよ」
「それなら家の餅っぽい食いもんを持ってけば良いんじゃねえか?」
「そうかい。それなら色々作れば大丈夫だね」
おばあさんは餅っぽいものを作り、桃太郎のもとへ戻ります。
「ありがとう、おばあさん…………?」
「今度はどうしたんだい?」
「おばあさん、これって柏餅?」
「男の子は柏餅だよ」
「成長を願ってくれるのは嬉しいけど」
「女の子ように桜餅もあるよ」
「…………これから鬼退治なんだけど」
「分からないじゃないかい。女の子も鬼退治に行くかもしれないだろ?」
「そうだったら嬉しいけど。多分お供になるのは野生の動物だよ」
「動物に餌付けしちゃダメだよ。自分で餌を捕れなくなってしまうから」
「僕、桃太郎なんだけど」
「人間の友達を作りなさいな。家で刀ばっか振っているから一人なんだよ」
「……何か泣きたくなってきた」
「男の子なんだから泣くんじゃないよ。ほら、お前の大好きなイチゴ大福も持ってお行き」
「ありがとう。というか何でうちは餅や団子がいっぱいあるの?」
「それはうちが和菓子屋だからに決まっているじゃないかい」
「……そうだったっけ? どおりで芝刈りと洗濯しかしていないのに暮らせているのか」
「鬼退治から帰ってきたら和菓子の勉強をするんだよ。お前は二代目なんだから」
「僕は遊びに行くんじゃないんだけどな」
そう言いながらも桃太郎はおばあさんが作ってくれた餅や団子を持って鬼退治へ出掛けました。
「ばあさんや。小腹が空いたから十団子でも食わんかね」
「十団子も桃太郎にあげちまったよ。大福ならあるけどね」
この時代、きびだんごは十団子と呼ばれていたことを桃太郎は知らなかったんのでした。
おしまい