第96話 新しい仲間
96 新しい仲間
窓に、こつん、と小石が投げつけられた音で、僕は目を覚ました。
リリーが窓を開けた。
「おはようリリー」
「おはよう、トレニア。何時だと思ってんのよ」
「昨日、ガーネットと話したの。一緒に付いてってあげるわ」
「マジで」
朝ご飯にしましょうと、僕たちは1階へ下りた。
小さめのパン、小型といっても日本のパンと比べると決して小型ではないそれに、バター、ジャム、サラミ、ハム、チーズなどが並ぶ。基本的に朝は火を使わないらしい。
紅茶用にお湯を沸かし、その半分でゆで卵を作った。
リリーたちが食べ終わる頃に、ゆで卵が出来た。殻を剥き、塩をかけて食べた。
デザートにりんごを切った。
「ああ、そうだ、エメラルド渡すね。トレニアが持つべきよ」
女神ベリロスのエメラルドを、本を返すみたいな気楽さで手渡した。
ハンカチで包まれたそれを確かめ、トレニアはありがとうとだけ言った。
「女神ベリロスが命を助けたんだもの。同じ力が流れている、トレニアが持つのが一番いいわ」
トレニアは、ハンカチを裏返すとその刺繍に気づいた。
「……上手くなってんじゃん」
「数こなしてるからね。私、仕立て屋だから」
食事を終えると、女神ベリロスを呼び出す。
「リリーと旅に出ることにしたわ。村を離れることになるけど、いいかしら」
「構わない。長い間、世間と関わるのを避けてきたが……。リリーが、かつての友を連れてきてくれた」
ベリロスは片手に持つ斧を消した。
「私も、久しぶりに外が見たくなった」
そう言い、トレニアが待つエメラルドの中に、すっと入っていった。
新しい仲間を得て、王子の探索も進むといい。
「次の目的地はどこなの、決まっているの」
「ラウネルの城に行くわ。初代国王と話をしてみる」
「初代国王って……。もう死んでるじゃない」
「ノア様には弟がいたわ。ノア様は王位に付く前に死んだけど、初代国王は、彼の弟カイン。確かにもう死んでいるわ。たしか90ぐらいで」
「じゃあ無理じゃん」
「ええ。でも、いるのよ。水晶玉に閉じ込められて、今でもラウネルの城に」
話すより、実際に会うのが一番よと、リリーは黒百合の女神を呼び出した。
「城へ連れて行って」
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「久しぶりだなリリー。そやつらは誰だ」
塔のてっぺんの、カインの部屋は掃除が行き届いていて、焦げ茶色の巨大な水晶玉は、磨かれてキラキラと輝いている。
13歳くらいだろうか。雪の肌に、黒髪を額でセンター分けにしている。
鮮やかな新緑の瞳は、幽霊とは思えないほど生気に満ち、キラリと光る。
「紹介するわ、彼女はトレニア。女神ベリロスの友達よ」
「黒百合の女神の、姉のか」
「ええ。こっちは、アキラ」
はじめましてと、僕とトレニアは挨拶をした。
「よくぞ参った。リリーの友達なのだな」
「ええ、そうよ。アキラは旧ラウネル王国の宝冠についていたガーネットを持っているわ」
「旧ラウネル王国だと……」
リリーは、黒百合の女神の、故郷を訪れたことを話し、その際にガーネットを入手した経緯を話した。銅の国カルコスに立ち寄ったこと、そして僕が、別の世界から来たことも。
「旧ラウネル王国の宝冠を、異界から来た者が得るとはな」
カインはふむふむと顎に指を当て、僕をまじまじと覗き込んだ。
「異界から来た者よ。お前はいずれ、国に帰るのか」
「……」
「宝冠についていたガーネットを持っているのだろう。お前にはこの国を継ぐ権利がある」
僕が王に?
それこそ、夢物語だ。
「……この国を継ぐのは、リリー様であるべきです」
「なぜ?」
「なぜって……。クラウス王子を助ける予定ですから」
「……予定、と。ふーん……」
「あの……。返した方がいいですか?」
「なぜ?」
「もともとこの国のものです」
「過去の話だ。今は、お前が持ち主なのだから、堂々としていろ」
持っていればよい、と彼はポンと僕の髪を撫でた。
「カイン、これからの話をしたいのだけど」
「かまわんぞ」
「クラウスは、シャルルロアのどこかの、石の中に閉じ込められている。人間にはできないこと。見つけたとしてもどうやって取り出せばいいのか……」
「それはその時考えろ。場所を特定するのが先だ」
カインは手を叩いて、僕のロッドを出すように言った。
「ガーネット、いや、アキラといったな。その石の精霊は求めに応じたのだろう? 探してもらうことはできないか」
お願いしてみましょうと、ガレを呼び出した。
「会ったこともない子どもを探せるわけないだろう」
まあー……、もっともな意見だ。
そんなことができるなら、彼女の方から提案してくれていたかもしれない。
「石の中にいる……。ダイアモンドナイトの内部……」
カインは首を傾け、何かを思い出そうというように目を閉じた。
「北方・ヴィルガー王国に知り合いがいる。彼女なら力を貸してくれるかもしれない」
ヴィルガー王国は、ラウネル王国よりさらに北に位置する。一年の半分以上を雪と氷に包まれた国だと、カインは説明した。
「リリー。お前のアメジストは、黒百合の女神のものだろう。他になにがあるか知っているか」
「いいえ。知っているのは、金と銀、銅、ダイアモンド、エメラルド、アメジスト……」
「5番目にサファイアが入る。最初はアメジストはなかった。ルビーだった。強力な炎の呪いのルビーだ。かつての7番目の石はヴィルガー王国にある」
「呪いって。そんな危ないものを」
「お前なら使える。クラウスを助けたいのであろう?」
じっとカインは、僕を見つめ、「この際、お前でもかまわん」とうなづいた。
「黒百合の女神、女神ベリロス、銅の国のカルコスまで仲間にしたなら……あるいは」
「……?」
「アキラ、お前ならルビーを入手できるかもしれん」
久しぶりに、楽しくなってきたと、カインは笑った。
そして、指をパチンと鳴らすと、10センチぐらいに縮んだ。そして僕の肩にひらりと飛んできた。
「私も行こう」
トレニアとカインが仲間になりました! ここまでちょっと長すぎた自覚はある




