表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/155

第96話 新しい仲間

96 新しい仲間


 窓に、こつん、と小石が投げつけられた音で、僕は目を覚ました。

 リリーが窓を開けた。

「おはようリリー」

「おはよう、トレニア。何時だと思ってんのよ」

「昨日、ガーネットと話したの。一緒に付いてってあげるわ」

「マジで」

 朝ご飯にしましょうと、僕たちは1階へ下りた。

 小さめのパン、小型といっても日本のパンと比べると決して小型ではないそれに、バター、ジャム、サラミ、ハム、チーズなどが並ぶ。基本的に朝は火を使わないらしい。

 紅茶用にお湯を沸かし、その半分でゆで卵を作った。

 リリーたちが食べ終わる頃に、ゆで卵が出来た。殻を剥き、塩をかけて食べた。

 デザートにりんごを切った。

「ああ、そうだ、エメラルド渡すね。トレニアが持つべきよ」

 女神ベリロスのエメラルドを、本を返すみたいな気楽さで手渡した。

 ハンカチで包まれたそれを確かめ、トレニアはありがとうとだけ言った。

「女神ベリロスが命を助けたんだもの。同じ力が流れている、トレニアが持つのが一番いいわ」

 トレニアは、ハンカチを裏返すとその刺繍に気づいた。

「……上手くなってんじゃん」

「数こなしてるからね。私、仕立て屋だから」


 食事を終えると、女神ベリロスを呼び出す。

「リリーと旅に出ることにしたわ。村を離れることになるけど、いいかしら」

「構わない。長い間、世間と関わるのを避けてきたが……。リリーが、かつての友を連れてきてくれた」

 ベリロスは片手に持つ斧を消した。

「私も、久しぶりに外が見たくなった」

 そう言い、トレニアが待つエメラルドの中に、すっと入っていった。


 新しい仲間を得て、王子の探索も進むといい。

「次の目的地はどこなの、決まっているの」

「ラウネルの城に行くわ。初代国王と話をしてみる」

「初代国王って……。もう死んでるじゃない」

「ノア様には弟がいたわ。ノア様は王位に付く前に死んだけど、初代国王は、彼の弟カイン。確かにもう死んでいるわ。たしか90ぐらいで」

「じゃあ無理じゃん」

「ええ。でも、いるのよ。水晶玉に閉じ込められて、今でもラウネルの城に」

 話すより、実際に会うのが一番よと、リリーは黒百合の女神を呼び出した。

「城へ連れて行って」



---


「久しぶりだなリリー。そやつらは誰だ」

 塔のてっぺんの、カインの部屋は掃除が行き届いていて、焦げ茶色の巨大な水晶玉は、磨かれてキラキラと輝いている。

 13歳くらいだろうか。雪の肌に、黒髪を額でセンター分けにしている。

 鮮やかな新緑の瞳は、幽霊とは思えないほど生気に満ち、キラリと光る。


「紹介するわ、彼女はトレニア。女神ベリロスの友達よ」

「黒百合の女神の、姉のか」

「ええ。こっちは、アキラ」

 はじめましてと、僕とトレニアは挨拶をした。

「よくぞ参った。リリーの友達なのだな」

「ええ、そうよ。アキラは旧ラウネル王国の宝冠についていたガーネットを持っているわ」

「旧ラウネル王国だと……」

 リリーは、黒百合の女神の、故郷を訪れたことを話し、その際にガーネットを入手した経緯を話した。銅の国カルコスに立ち寄ったこと、そして僕が、別の世界から来たことも。

「旧ラウネル王国の宝冠を、異界から来た者が得るとはな」

 カインはふむふむと顎に指を当て、僕をまじまじと覗き込んだ。

「異界から来た者よ。お前はいずれ、国に帰るのか」

「……」

「宝冠についていたガーネットを持っているのだろう。お前にはこの国を継ぐ権利がある」


 僕が王に? 

 それこそ、夢物語だ。


「……この国を継ぐのは、リリー様であるべきです」

「なぜ?」

「なぜって……。クラウス王子を助ける予定ですから」

「……予定、と。ふーん……」

「あの……。返した方がいいですか?」

「なぜ?」

「もともとこの国のものです」

「過去の話だ。今は、お前が持ち主なのだから、堂々としていろ」

 持っていればよい、と彼はポンと僕の髪を撫でた。


「カイン、これからの話をしたいのだけど」

「かまわんぞ」

「クラウスは、シャルルロアのどこかの、石の中に閉じ込められている。人間にはできないこと。見つけたとしてもどうやって取り出せばいいのか……」

「それはその時考えろ。場所を特定するのが先だ」

 カインは手を叩いて、僕のロッドを出すように言った。

「ガーネット、いや、アキラといったな。その石の精霊は求めに応じたのだろう? 探してもらうことはできないか」

 お願いしてみましょうと、ガレを呼び出した。

「会ったこともない子どもを探せるわけないだろう」

 まあー……、もっともな意見だ。

 そんなことができるなら、彼女の方から提案してくれていたかもしれない。


「石の中にいる……。ダイアモンドナイトの内部……」

 カインは首を傾け、何かを思い出そうというように目を閉じた。

「北方・ヴィルガー王国に知り合いがいる。彼女なら力を貸してくれるかもしれない」

 ヴィルガー王国は、ラウネル王国よりさらに北に位置する。一年の半分以上を雪と氷に包まれた国だと、カインは説明した。


「リリー。お前のアメジストは、黒百合の女神のものだろう。他になにがあるか知っているか」

「いいえ。知っているのは、金と銀、銅、ダイアモンド、エメラルド、アメジスト……」

「5番目にサファイアが入る。最初はアメジストはなかった。ルビーだった。強力な炎の呪いのルビーだ。かつての7番目の石はヴィルガー王国にある」

「呪いって。そんな危ないものを」

「お前なら使える。クラウスを助けたいのであろう?」

 じっとカインは、僕を見つめ、「この際、お前でもかまわん」とうなづいた。

「黒百合の女神、女神ベリロス、銅の国のカルコスまで仲間にしたなら……あるいは」

「……?」

「アキラ、お前ならルビーを入手できるかもしれん」

 久しぶりに、楽しくなってきたと、カインは笑った。

 そして、指をパチンと鳴らすと、10センチぐらいに縮んだ。そして僕の肩にひらりと飛んできた。

「私も行こう」



トレニアとカインが仲間になりました! ここまでちょっと長すぎた自覚はある

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ