第93話 夕食作り
93 トレニアと夕食作り
翌日、昼過ぎまでリリーと庭の手入れと部屋の掃除をしていた。リリーの家族の墓のまわりの雑草を抜き、隙間に小石を敷き詰めた。敷地の半分ほどしか進まなかった。
簡単に昼食を取り、昼寝をしていると、シャーロットが呼びに来た。
今までの経緯を簡単に説明したといい、ため息をつく。
「リリーとは何もしてないって、言っておいた。そこだけは絶対にちゃんと、リリーからも言ってくれ」
「当たり前よ。2年一緒に暮らしてたって聞いたら、誤解して当然よ。わかった」
リリーと話したいということで、全員でトレニアの家へ向かう。
「いらっしゃい」
キッチンに並んだたくさんの野菜や果物を、見て、リリーは夕飯のために呼ばれたのねと胸を撫で下ろした。
「女の料理は長いのよ。店で、チーズとパンを買ってきてくれる?」
まずはポトフからだ。
玉ねぎの皮、にんじんの皮、かぼちゃの種を水で煮込んでスープを作る。
「昨日、シャーロットからざっくり聞いたんだけどさ。シャルルロアに行ってたの?」
「うん。村が襲われた時、ラウネル王国にいたのは、シャルルロアの女王だったからね。クラウス王子はなかなか見つからなくて、仕立て屋をやってた」
「なんか派手になったもんねえ」
トレニアが髪を触った。よく三編みにしてくれたっけ。
「でも可愛くなったよ」
「……ありがと」
スープが煮えるのを待つ間に、牛肉の仕込みをする。
塩を少しかけて、小麦粉をはたいておく。これはポトフとは別に、赤ワイン煮込み用だ。
フライパンにオリーブオイルを熱し、両面を焼く。トレニアが肉を焼いている間、にんじんの皮をむき、食べやすい大きさに切る。
「あのアキラって子なんだけど、店員なの」
「ええ。店を手伝ってくれてた」
「へえー……」
「……」
「リリー、あのね。王子探ししてるのよね?」
「ええ。アキラには事情を話してあるわ。とても役に立ってる」
「……」
「あの子は、もともと違う世界から来たんだ」
焼いた肉をフライパンから取り出して、別の鍋に移した。たまねぎとにんじん、トマトを潰してペーストにしたものを一緒に入れる。
「水、どのくらい」
「このくらい」
鍋の半分ほど水を入れて、赤ワインを入れる。
牛の煮込みは、あとはコトコト煮込むだけだ。
ベーコンを大きめに切り、これもフライパンで焼き目をつける。
皮をむいたじゃがいもとたまねぎ、にんじんとかぶを、鍋に入れる。先に作っておいた野菜スープをザルでこして、スープだけにする。
「違う世界ってどういう意味」
「アキラが言うには、この世界ではない、別の国で暮らしていたそうよ」
「……」
「言葉も、建物も、歴史も違う。そういう世界が在るんですって」
野菜でとったスープに、切った根菜とベーコンとソーセージを入れて、こちらは暖炉にかけた。
「トレニアのパイが食べたいわ」
「そう言うと思って、あとは焼くだけよ。クランベリーにした」
「さすが」
店で挽いてもらったひき肉で、肉団子を作る。玉ねぎをみじん切りにして、塩コショウを多めに、トレニアが庭で摘んだハーブをちぎって捏ねる。
シンプルに焼くだけにして、私はりんごを千切りにして、タンポポの葉を合わせてサラダにした。
「黒百合の女神の、故郷に行ったわ。ランズエンドって行って、世界の果てみたいな島だった」
「そうなの」
「彼女、結婚してたわ。旦那さんがいた」
「マジでー」
ランズエンド、銅の国カルコスで出会った神官レッカと巫女アカネ、旅で出会った人たちの話を聞かせる。
黒百合の女神の姉妹たちとの協力で得た、神々の石。トレニアに、エメラルドを渡さなくては。
私の旅には、トレニアが必要だ。
「あの、トレニア」
「リリーはさあ! 王子を助けたいんだよね!?」
包丁で、まな板の上の、りんごをザクっとトレニアが切った。
「そうよ」
「すごく大変だったのはわかるの。わかるのよ、でも……。私はリリーが、シャルルロアの女王を暗殺しようとしていることが、受け入れられない」
続きます。
トレニアが気になったら方は、一部・へなちょこリリーの惚れ薬をご覧ください!




