表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/155

第90話 女王と母と夜の川

「アミシ……と言ったわね。私と少し話さないかい」

「……ええ、いいわ」

 まだ話は終わってないとレネネが引き止めたが、アゼナはそっと彼女の手を掴んだ。

「私たちは似たような境遇のようだよ。レネネ、あなたはお菓子を食べて待っていてくれないかい」

 アゼナはアミシを外へ連れ出した。

「アキラ」

 リリーが外に視線を向けた。頷いて、僕は台所の勝手口から抜け出した。


 村の中心部には噴水があったが、あちこちレンガが壊れている。

 そこを通り過ぎ、村外れの川まで二人は歩いた。川面に冷たい風が吹いて、木の陰に隠れる。


 アゼナは枯れ木を拾い、火を付けた。

「私の娘はね、小さい時に川に落ちて死にかけた」

「……」

「あなたは、砂漠の国の踊り子さんなのね。大きな娘がいるのね、若く見えるのに」

「私は……。女神のエメラルドのおかげで、数百年、生きている。生きてる時は女王だった」

「あらあら、まあまあ……、本当なのね」

「民の反乱で、大河に投げ込まれ、エメラルドのおかげで生き残った。……夫は死んでしまった」


 川に投げ込まれた女王は、自暴自棄になって国を滅亡させたのだと話した。

「今まで守ってやってたのに、民は夫と私をワニがいる川に投げ込んだ。腹が立ったから、大河を氾濫させて国を川底に沈めたの。それから女神は力を貸してくれなくなった。当然なんだけど」

 

「死ねなくなった私は、各地をさすらったけど、結局ふるさとに戻ってきた。孤児を拾って踊りを教えたわ」

「あのレネネって娘は」

「拾った子よ。長いこと生きたけど、子供は出来なかった。大勢殺した罰ね」

 ぱきぱきと枯れ木が燃えて灰になっていく。二人で枯れ木や枯れ葉を拾っては火にくべる。

 川面に火の影が反射しては流れて行く。時を止めることはできない、アミシは呟いた。

「私の夫は死んでしまった。お前の娘はまだ生きているのだろう。エメラルドと引き換えに起こしてもらえばいい」

「……そんな辛い思いをしたのに、私の娘のために、他人を殺すなんてできない」

 

 森の影の隙間から星空がのぞいている。

 元女王と、女神の友達は隣り合って座っていた。


「……私が、ベリロスと初めて会ったときの話を聞いてくれるかい」


 出会いは、なんてことない雨の日だった。

 旅商人が長雨に困り果てて、教会に世話になっていた。

「エメラルドに見えるが、こんなでかいのはガラスだろう。ネックレスにでもしたらいい」

 安く買えた素敵なガラスのパーツ。エメラルドだなんて思わなかった。

 使ってないチェーンを通し、汚れた表面を拭くと、突然、

「新しい持ち主よ、願いを叶えてやろう」

 と女神が現れた。

「当時、恋人が病気でねえ。薬草の調合を教えてもらったの。たちまち回復してね、そのまま結婚したわ。それでトレニアが生まれた」

 女神ベリロスはぶっきらぼうだけど、村人も知らない薬草の使い方、育ちの悪い畑の手入れ、なんでも教えてくれた。

「ベリロスがいればなんでも叶う気がした、誰より優しかった」

「……わかるわ」

「私は、魔法がそんなにうまく使えなかった。子供が生まれた時に、もっと練習をしておけばよかったのに、ベリロスがそばにいてくれるならいいと……何もしなかった。トレニアが死んだ時、友達なんだから助けてと無理を言った。それでも彼女は、助けてくれた」

 それなのに私達ときたら。

「女神の力を当然のもののように思ってた。友達なんだから助けてくれて当たり前だと」

 アミシに謝らないといけない。

 助けてもらう時だけ友達面をして、努力を怠った。

「良い友人である努力をしなかった。友情にあぐらをかいて」


 違う、そうじゃない。

「……違うんじゃないですか」

 木の陰から僕は思わず飛び出した。

「わかってません、二人とも」

「……アキラ? あなたいつから」

「そんなことはどうでもいいんです、まず謝るべきは、彼女の……信頼を裏切ったこと、ではありません」

アゼナおばさんのずっと書きたかったシーン。

脇役で出したキャラのストーリーって、なかなか書けなくてモニョモニョしますよね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ