第88話 ふるさと
ラウネル村に戻ってきました
黒百合の女神の力で、ラウネル王国へ一瞬で移動する。
リリーの故郷のラウネルの村はいつもと変わらず、村人たちは農作業に勤しんでいる。森の中から、木こりが斧を使う音が響いた。
トレニアの家の前で、リリーはシャーロットの手を取った。
「シャーロット。トレニアは必ず目覚めさせてみせる。だから、私を信じて、決して慌てないで」
「わかった」
「約束は守る」
「大丈夫だって。お前を信じるよ」
よし、と拳をぶつけあって、リリーはトレニア宅の玄関を開けた。
「アゼナおばさん、いま帰ったわ。友達を連れてきた」
「まあまあ、リリーお帰り」
「紹介するわ。こっちの踊り子っぽい方がアミシ、帽子のがレネネ」
異国の衣装をまとった二人に、アゼナは驚いてひっくり返った。アミシがはじめましてと、挨拶しながら、手を伸ばして起こした。
「寒そうな服ねえ。さあお入んなさい」
すぐご飯にするからねと、アゼナは台所に入っていった。
「アキラ、お手伝いしておいで」
「はい」
それは、リリー様がするべきでは……? まあいいけど。
お手伝いしますと声をかける。
「棚にパンがあるからね、薄く切って」
チーズのかびを削って、食べやすい大きさに切った。パンを焼き、ベーコンとチーズを挟む。
台所といっても、別に扉があるわけではないので、居間の話し声は筒抜けだ。
「ボロい家でしょう」
「そうね……」
「この村は小さくて森は暗いし、おまけに一回焼き払われているから、思い出もなにもあったもんじゃない。学校も焼けてしまった。それでも、故郷なの。私たちの」
「リリー、何が言いたい」
「あなたは、自分の国の大勢の民を、川に流したんでしょう。ベリロスの気持ちを考えなかった? 神をないがしらにしたのはあなた」
「……」
「私も謝ってあげるからさ。仲直りしなよ」
アゼナはミートボールと野菜のスープを作り、木の皿に取り分けた。
「あったかいうちにお食べ」
「いただきます」
アミシとレネネもスプーンに口をつけた。
トレニアを起こすためには、彼女を殺さないといけない。
「アゼナおばさん。チーズもうちょっとちょうだい」
「はいはい」
「ありがとう。あのね。エメラルドを見つけたわ」
えっ、このタイミングで言う?




