第9話 魅惑のビーフサンドイッチ
コンビニに売ってるアレ。
今回はいわゆる日常回ってやつです。
シャーロットは寝てしまったので、少し市場に行くことにした。
米が食べたい。
ああ。塩鮭のおにぎりが食べたい。
コンビニのスパイシーなチキンが食べたい。
「あなたと……コンビニっ……!」
……わかめとじゃがいもの味噌汁が飲みたい。
ガリガリしたアイスが食べたい。
二層のプリンが食べたい。
りんご食べたい。青森産以外僕は認めない。
日本は素晴らしい国だったと、知らない街に来て初めて気づいた。
帰りたい。どこでもコンビニがあった。スーパーで買った方が安いのはわかっているんだけど、新発売のジュースが出たらついコンビニで買ってしまう。
学校帰りにアイスを食べながら歩いた。平凡だけと楽しかった日々。
「コンビニがないのか、この街は……」
まっ、ないだろうな。
すぐそこのあの店も、あなたとコンビニのあの店も、いい気分になれるあの店も。
まちのほっとステーションなあの店も。
あんなに愛していたのに、遠く離れるまで気づかなかった。
肉じゃが食べたい。
じゃがいもと人参と、牛肉あるいは豚肉はあるだろう。
……醤油がない……。
せめてコンビニで売ってる、胡椒かかってるビーフなんとかが食べたい。名前が出てこない。
剣術道場の前を通りかかる。
……。
あれ。一階の、この店は……。
窓側の本棚、奥に並んだドリンクのビンの陳列。
なんだ、この感じ……。
知ってる、知っているぞ!!
「すみませんっ!」
「いらっしゃいませー」
店内は、石造りで、リリーの家とさほど変わらない。
「はい、何をお探しですか?」
金髪の店員が愛想よく聞いてくる。
「オレンジジュース、ありますか?」
「はい、奥が飲み物です」
ガラスの冷蔵庫ではないが、この並べ方、間違いなくコンビニだ。
どういうことだ。
お菓子やパンも並んでいる。
さすがにガリガリしたアイスはない。カウンターに揚げた鶏まで売っている。
「あの、この店は一日中開いているんですか」
「いいえ朝からやってますが、日付が変わる前には閉めますが」
朝の7時から夜の11時くらいまでだろうか。
試しに揚げた鶏を買ってみると、よく知った味付けがされている。
おにぎりがあれば完璧なのに。
泣きだしたいほどの懐かしさに、お金を払ってからも雑誌コーナーで立ち読みをしてしまった。漫画はさすがになかった。
……長居してしまった。
このコンビニっぽい店には無かったが、どうしてもアレが食べたい。
市場に戻り、肉屋を探した。
「すみません、牛肉のパサパサしたやつを探しているんですが」
「パサパサ……?」
「保存食なんですが、ちょっとしょっぱい」
「ああ、これかしら。試食してごらん」
店のふくよかなおばちゃんが、手の上に山積みにして試食させてくれた。
香辛料が付いてないけど、この味だ。
袋いっぱい購入し、パン屋とチーズ屋を教えてもらう。
買い物をすませて、家に戻る。昼過ぎにようやくリリーが起きてきた。
「おはようございます、ご飯作りますから着替えてください」
カットしたパンに、バターを塗り、パストラミビーフを挟む。肉屋のおばちゃんによると、牛肉を塩漬けにしてから燻煙しているらしい。
味付けされていないタイプを買ったので、香辛料は自分で好みの量をかけてもらうことにする。
間に薄く切ったチーズを挟み、それからフライパンで軽く焼いた。もう一枚も焼き、重ねてカットする。
「どうですか」
「うーん……」
もしゃもしゃと食べ始めたリリーだったが、途中から目を覚ましたようだ。
「……美味しいッ……」
「良かった。シャーロットは胡椒いらないの」
「ああ。でも美味いな」
コンビニで売ってるアレをパンにはさんで、よく母に食べさせていた。
リリーたちが喜んでくれてほっとする。
「また作ってねアキラ」
「はい、いつでも」
「パン食べたの久しぶり」
「主食じゃないんですか」
「買うんだけど、食べきれなくてカビ生えちゃうのよ。だからあんまり買わなくて、食べたい時にないのよね。芋も気が付くと葉っぱが出てて」
生活力がないんだな……。残念な美人。
僕は気にしないよ。
「そうだ、出かけなきゃいけないんだった」
食べ終わったら着替えてねとリリーは、残りのサンドイッチを口に詰め込んだ。
唐揚げ系はファミリーマートのスパイシーチキンが好きです。
あなたのコンビニはどこから?