表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/155

第85話  ニネ王の記憶

ニネ王は15歳くらいを想定しています

ショタ者なもので……。

85 ニネ王の記憶


 ハトホルの住居を訪れる前に、博物館で、アキラはニネ王の像に気づいた。なんとか本人と話したいと黒百合の女神を呼び出した。

「別にいいけど……。古い魂よ、どの程度話せるものかわからないわよ」

「構いません」


 黒百合の女神が手をかざすと、ニネ王の像が光だし、目の前に少年が現れた。

 像よりもはるかに若い。こんなに若い王だったのか。

「私を呼ぶ者は誰か」

 その姿は半透明だが、王の装束をまとい、縞柄の頭巾を被っている。宝石で飾られたプレート状の首飾りのきらめきが、彼が特別な者なのだとひと目でわからせた。

 腰布にさえ、金属のプレートや宝石が縫い付けてある。


「私は、女神ベリロスの使い。リリー・ロック」

 リリーはうやうやしく頭を下げて挨拶をする。

「何用か」

「失われたエメラルドを持ってこいと女神に言われているの。現在はあなたの妻・アミシが持っている」

「馬鹿な。我らが生きていたのは遠い昔の話」

「まだ生きてる。私は女神ベリロスに石を返さないといけない。でも、彼女から石を取り上げればおそらく死んでしまうでしょう。私とともに、女神ベリロスに合うように説得して欲しい」

「そのようなことを信じられるか」

「連れてくるわよ!」

 むっとしたリリーがそう叫んだが、ニネ王は不思議そうな、困ったような顔で曖昧に微笑んだ。

 それはそうだろう。眠っていたところに、突然、あんたの妻を連れてくると言われても、信じない方が普通だ。

「……王よ、お伺いしたいことがあります」


 ニネ王は答えず、目線だけをこちらに向けた。

「……彼女は、女王というより、奴隷娘のような印象を受けました。あなたの細君は、奴隷出身の踊り子ではありませんでしたか」

「……その通りだ」

「その方と出会った時のことを思い出していただけませんか」


 王様というよりに、彼からあまり威圧感は感じない。

 素直に首をかしげて、思い出そうとしてくれている。


「出会ったのは、そうだ、神々に捧げる儀式の場だった」

 大理石で作られた舞台。夕闇の中で松明が煌々と舞台を照らす。

 音もなく現れた、花々を飾った踊り子に目を奪われた。

「……大勢の踊り子の中で、彼女だけが輝いて見えた」

 輝く白い恋の始まり。

 踊り子の中のひとり、彼女をその場で娶った。


「名前はアミシでしたか?」

「そうだ。美しい女だった、アミシなど、いくらでもいる名だったから、名無しみたいなものだと笑っていた。宮殿を作らせようとしたが、部屋がひとつあればかまわないと……何事にも、気にしない女だった」

 本来ならば、他国の姫や高官の娘を妻にするべきだったのだろうが、アミシは召使いのように働き、次第に宮殿のすべてを把握していった。



 そんな時だった、隣国が攻めてきたのは。

 気づけば、国境を突破され、大河の向こうに敵軍の旗が霞のようにはためいていた。


 

「追い返すだけでいいですか? 皆殺しにすればよろしいですか?」

 砂漠と大河を背に、踊り子の衣装で立つ彼女は、あまりにも戦場に不似合いだった。

「アミシ、何故ここにいる」

「王のお役に立つためです。あなたの希望通りに」

 追い返すだけでいいと命じると、彼女は川岸で踊り始めた。敵軍はその美しさに様子を見ていたが、症の一人が号令を出し、一斉に対岸から矢を射掛けられる。

「女神の名において……」

 突如沸き起こった風が、矢を対岸に押し返し、砂と矢を巻き込んだ嵐は、対岸を血に染めた。

「……なんと……不思議な力だ……」

「女神の力です。あなただけのために使うのですよ」

 恐れをなした敵軍は、川を渡ることもなく退却していった。

 一人の兵も死なさず勝利をもたらしたアミシのために、盛大な宴が開かれた。そして女神に仕える者として、女王の位が与えられた。ニネ王は統治者として、アミシは神官として、王家も国民も誰もが二人を祝福した。


 しかし、その幸せは長くは続かなかった。

 城壁を築き、大河の整備をし、それでも周辺諸国は、女神の力を使うアミシを恐れ、何度も侵略を試みた。あるいは暗殺しようという国も現れた。その度、軍を出し、二度と侵略しないようにと反撃をする。

 砂漠の国テル・アルマナは、侵略と反撃を繰り返し、周辺を国々を飲み込み、急速に拡大していった。

 領土と流れ込んでくる食料、黄金や宝石。そして武器。

 他国の武器と、女神ベリロスの尽きることのない魔力で、連戦連勝だった。

 戦い勝てば勝つだけ、それだけ富が流れ込んでくる。

 軍部の言うままに民の望むままに、若い王と女王は戦い続けた。


 終わりが見えない、繰り返される戦に、先に怒りを爆発させたのは、民だった。

 ある日、暴徒と化した民は、宮殿に火を放ち、王と女王の馬に矢を打ち込んだ。無数の矢と、棍棒で殴られて肉塊に変わっていく妻を救い出し走った。大河に追い詰められ、石を投げつけられる。

「生き残れ」

 川に投げ込まれた直前に、血と涙に濡れた彼女の顔が、怒りと悲しみに歪んで見えた。

「王よ、私……は……」

 手を離して、流れに身を任せる。どの道、ハリネズミのように矢が刺さった体では、どうしようもなかった。



「私が覚えているのは、ここまでだ」


 彼女が最後に伝えたかったことは、なんだったのか。

 


感想ブクマなど、お待ちしております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ