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第83話 戻れない旅路

 ハトホル一座のミシュカンまで連れて帰ると、リリーは明日約束をしている者だと切り出した。


「レネネから聞いているわ。今夜のステージを見に来てくれたお客様よね。助けてくれてありがとう」

「大変な目にあったわね。強盗は多いの」

「ええ。踊り子が持ってる宝石なんて、ただの飾り、ガラスや安物の石を豪華そうに加工してるだけなのに」

「アミシというのは、本当の名前?」

「そうよ。アミシっていうのは『花』って意味。よくある名前過ぎて、『名無し』みたいなものよ。ハトホルは肩書みたいなものね」

「……そう、なのね」

 目の前で見た魔法は、一朝一夕で身につくものではない。

 敵の動きを見て、確実に命を取りに来ていた。戦慣れしている。

 間違いない、彼女が女王だ。

 説得するにはアキラの協力が不可欠だ。あの子は誰にでも話をつけられる冷静さがある。

「じゃあ、帰るわね。また明日。遅くなったけど、私はリリー。リリー・ロック」

「ええ。では明日の昼に」


 ホテルに戻ると、アキラとシャーロットはすでに入浴を済ませていた。シャーロットは猫の姿で一足先に寝ている。

「彼女、どうでした?」

「ちょっと話してみたけど、アミシは本名だって。それに戦い慣れていた。とても、踊り子だけやっているようには見えなかったわ」

「……それなら」

「十中八九、彼女が古代の女王でしょうね。アキラ、あなたの見立てで合ってると思う。強盗もサマになってたわよ」

 よしよしと頭を撫でて、今日の働きを褒めてやる。いつか旅が終わったら、この子を抱きしめてあげられなくなる。

 移ってしまった情を断ち切ることは難しい。

「リリー様……?」

 14歳のわりには、細くて小さいアキラを抱きしめて、涙を誤魔化す。

 大好きだと伝えられたらどんなに楽か。

「なんでもないわ。疲れたからお風呂入ってくるわね」


----



 翌朝、レネネがやってきた。

「よろしかったら昼までガイドしますが、行きたいところはありませんか? オススメのカフェもありますが」

 大河沿いのカフェは、色鮮やかな果物をふんだんに使ったケーキや、真っ赤なハイビスカスティーなど、見た目からして日本やシャルルロアとはだいぶ違うものばかりだった。揚げドーナツのようなものに、甘いシロップが大量にかけられていて、染み込んでいる。

「……甘っ……」

 トイレを借りようと、店員に場所を尋ねる。

「ご案内しますねっ」とレネネが立ち上がった。


 用を足すと、店内のお土産コーナーに目がいった。

「ピラミッドとかないかな……。ボッシュートです」

 土曜夜の、クイズ番組はまだ放送しているのだろうか。

「アキラさん、こっちですよ」

 テーブルの場所をきょろきょろ見渡していると、レネネが手を振った。

「アキラさんも、リリーさんたちと同じ国の出身なんですか?」

「僕は……、少し離れた島国の出身です」

「リリーさんとは違うんですね。てっきり兄弟かと」

「僕はリリー様の店の店員です。町の仕立て屋さんなんです」

「えっ、仕立て屋……ですか。だからお綺麗なんですね」

 まあ、顔は美人だよな。魔法でメイクしてるし。

「あの、ハトホルさんも綺麗じゃないですか。引き取ってもらったってことは、……彼女、今何歳なんですか?」

「私もよく知らないんです。私を引き取ってくれたときには、もう今と同じ感じでしたから。異常に若い母親みたいなモンです」

「やっぱりダンサーだから、美容には気を使ってらっしゃるんですね」

 女神のエメラルドのおかげだとしたら、きっと、もう年を取ることはないんだろうな。

 もし、その石を奪ったら、どうなってしまうんだろう。肉体が過ぎ去った年月の分だけ老化したら、死ぬしかない。

 リリーの友達を助けるために、ハトホルを殺さなければいけない。

 レネネが、母親のように慕っているひとを。

「……」

 そろそろ戻りましょう、とレネネが手をひいた。


「この国の博物館に寄りたいのだけど、まだ時間は大丈夫?」

 リリーに言われ、会計をしてカフェを出た。

 露天商の呼び込みに気を取られつつ、博物館に到着する。

 無限とも思える展示をレネネは説明してくれた。その一角に、『ロンザ川の洪水』と題されたケースがあった。

 

 『母なるロンザ川の洪水と復興の歴史』。

 数年に一度、洪水が起こるが、この時に堆積された肥沃な土が作物を実らせることと、川底から見つかる砂金がもたらした莫大な富の説明が、パネルに書かれているようだ。

 『アミシと民衆の戦い』と、別の項目で小さく書かれている。

 『度重なる戦に民衆の怒りが爆発し、ニネ王と女王はロンザに投げ込まれた』。

 おそらく、これが、彼女の歴史なのだろう。

 黒く塗りつぶされた表現の女王とは対象的に、ニネ王の像は黄金でキラキラと光り輝いている。

 これ、いや、彼が、アミシの夫なのだろう。切れ長の目と高い鼻、イケメンだったことは一目瞭然だ。

 ただ、民衆に殺された王ということで、博物館の中には、それ以外の展示は何もなかった。

「この女王は、何もかも手に入れたのに、何もかも失ったのね」

「リリー様」

「戦をしなければ、幸せな夫婦でいられたでしょうに」

 リリーは、展示の文字列を指でなぞり、「私と同じね」と呟いた。

「彼女からエメラルドを取り上げたとしたら、……彼女はどうなるんでしょう」

「どうなるんでしょうね」

「無関係の人を巻き込んでます」

「そうね。女神の力に頼ることにした以上、その持ち主と思われる人は巻き込むことになるわ。無関係なんて言ってられないの。アキラ、それでも私達はもう戻れないのよ」



世界ふしぎ発見と遊戯王が好きです。

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