第81話 踊り子ハトホル
「さあ、踊り子ハトホルの登場です!」
拍手の中、褐色の肌に鮮やかなエメラルドグリーンの髪をしたダンサーが躍り出た。
「あっ」
さっきの。路地裏で襲われていた彼女だ。
メロディに乗ってひらひらと蝶のように舞ったかと思えば、怪しく腰をくねらせる。妖艶なダンスに観客から歓声があがる。
指先までコントロールされた動き、股間をうっすら隠す腰布がひらりとはためく、その全てが止まること無く音楽に合わせて揺れる。
「すごーい……」
「ハトホルというのは、もともと神々に捧げられる舞でした。次第に、神殿以外でも踊られるようになり、一部の人気のある団体は、こうやって神殿以外の仕事もしています。
難しいダンスなので、人前で踊れるようになるまで何年もかかるんです。私は向いてなかったみたいで」
「あら……。あなたもダンサーだったの?」
「ええ、私は孤児だったんですけど、奴隷市に売られる前にハトホルさんに引き取られたんです。彼女に指導されたんですが、とても、あのようには……」
えっ、待って、彼女たちは何歳なんだ?
その時、ハトホルの手首の鈴がシャンシャンとなり、手拍子が始まった。
曲調が変わり、舞いはますます激しく速くなっていく。楽団と客の手拍子が最高潮に達し、彼女は大きく背を仰け反らせた。
観客が立ち上がり一斉に拍手を送った。
「すごかったわね、いいものを見たわ」
「ほんとですね」
「ねえ、人気があるダンサーだから難しいと思うんだけど、あとでお話ってできないかしら? もちろんタダとは言わないわ」
今日のガイド料の倍を出すと申し出、レネネは時間を取ってもらえるか確認してくると、テーブルを離れた。
「……アキラ。そっちの魚のフライちょうだい。うん……美味いなコレ、帰りに買って帰ろう……」
「リリー様」
似顔絵を取り出しながら、さっきの踊り子だとみんなで確認する。
「アカネとレッカが、エメラルドのエネルギーを追って、彼女を見つけ出した。あの子たちは神官よ信用できる」
「彼女が、今の持ち主なんでしょうか。エメラルドが失われた時、誰かが拾ったとしたら、もっと金持ちが持ってるんじゃないでしょうか。神々の力を使える石なら、売れるでしょう。」
「そうね。使えなかったよ売るわね。石を持っていたところで、魔法を使う技術と知識がなかったら、使えないかもしれないし。現に、この国では、一般人に魔法を使える者はいないと考えられているみたい。でも、アカネたちが探したのよ、彼女……ハトホルが持っていると見るのが妥当ね」
踊り子ハトホルが魔法を使うのを、僕たちはこの目で見ている。
彼女も魔女なのか?
「リリー様のおばあさんは、黒百合の女神のアメジストを持っていたから、100歳を超えても生きていたんですよね」
「ええ」
「同じなんじゃないですか?」
「どういうことよ」
「民に反乱を起こされて、川に投げ込まれた女王……。エメラルドの魔力で、生き延びたんじゃないでしょうか」
「……まさか。本人だって言うの?」
「そうでないとき言い切れない、と申し上げているんです。僕たちは古代の女王の顔を知りません。それは、この国の人達も同じではないでしょうか」
古代の女王が生き残っていたとしても、庶民にわかるはずがない。その当時の人々はすでに死んでいるのだから。
「……そうね。そうかもしれないわね。なら、どうやって確かめる?」
やっと砂漠の国テル・アルマナの国で書きたかったシーンが書けました!
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