第80話 川下りクルーズの夕べ
大河を下る川下りクルーズです。書きたかったので書いた!
博物館を出て、夕食のリクエストはありますかとレネネが尋ねた。
「料理はなんでもいいけど、この国のダンスが見たいの。食事をしながら見られるってガイドブックに載ってたわ」
「では手配をしておきますね。最近はハトホルというダンサーがとても人気があるんですよ」
「あら楽しみ」
日暮れ頃に宿に迎えに来ますと言って、レネネは帰っていった。
「アキラ。レッカたちが見つけたエメラルドの持ち主なんだけど、似顔絵を書かせていたわね。持ってきてる?」
「はい、あります。でもどうやって探すんですか、この人の多さで……」
アカネが絵師に描かせた似顔絵を荷物から引っ張り出す。
「あっ……?」
見た瞬間思わず声が出た。路地で襲われていた女性に、そっくりだった。
「さっき、見たことあるなって思って、モヤモヤしてたのよ」
後でレネネに聞いてみましょうと、似顔絵を畳んだ。
案内されたのは、大河沿いに無数にある桟橋で、僕たちはそこから船に乗り込んだ。川下りクルーズがこの世界にもあるとは。
夕日を見ながらのクルーズは幻想的だった。砂丘の影、紫に暮れていく川沿いの街からは、笛や弦楽器の音色が響いてくる。
甲板上に並べられたテーブルに着くと、次々と酒と料理が運ばれてきた。ランチで食べたものより、肉料理が多い。
スパイスの聞いたラム肉に齧り付いて、酒代わりにジュースを飲んだ。
マンゴーのような甘ったるいジュースのあとに、アイスティーのようなお茶が出てきた。ところが、こちらも砂糖がたっぷりなのか、やたら甘い。
コフタはひき肉を丸めて串で焼いた、つくねによく煮た料理だった。ほかにも、ナスやトマト、ひき肉を煮込んだなんとなくパスタに合いそうな料理もある。
「テル・アルマナは料理が充実してるわね」
「ああ。こっちの白身魚のフライうまいぞ。アキラも食え」
「あっ、おいしいですね、ほくほくしてて」
リリーと僕、シャーロットとレネネで、頼んだ料理をシェアしながらじゃんじゃん酒を飲む。レネネの分の支払いもリリー持ちなので、彼女も気にせずグラスを空けている。
「レネネ、ちょっといい? このひとを探しているんだけど……」
「はいはい。ああ、彼女なら知ってますよ」
「えっ!?」
しばらくすると、楽隊が出てきてギターのような弦楽器と太鼓の陽気なリズムの音楽が、甲板の上を満たした。
篝火が追加されて、真昼のような明るさになった。
「さあ、踊り子ハトホルの登場です!」




