第79話 砂漠の国テル・アルマナ
8章スタートです! 今度の国は砂漠の国です。
感想ブクマなどお待ちしております!
砂漠の国テル・アルマナに着いたのは、メリリャの港から、4日後だった。
以前の長い航海から比べれば、ラクなもので、食事の合間をひたすら寝て船酔いをやり過ごした。
ダルナの港町に着く頃には、体はだるさと肩凝りでバリバリに固まっていた。
砂漠の国というだけあって街は埃っぽいが活気がある。行き交う人々の流れに一行は面食らった。
「とりあえず、宿を探しましょうか」
その時、悲鳴と怒号が細い路地から聞こえてきた。
路地から飛び出してきた、水着のようなものを着ているほぼ半裸の女性が、「死ねッ!」と回し蹴りを食らわせている。
「ぐぁぁぁぁ!」
ナイフを振り回していた男が、蹴りで眼球を潰され、ひっくり返った。
「物取りかしら……」
リリーが、半裸の女性を助けようとしたところ、彼女は手首につけられた鈴をシャンシャンと鳴らした。
すると、どこからか飛んできた、1メートル以上はあろうかという巨大な蜂が数匹、襲ってきた男を刺した。
断末魔の叫びとはこういうものか、市場に響いた悲鳴に人々は後ずさった。
「あなた、大丈夫?」
「ええ……、平気よ。ただの物取りよ」
あなたも美人だから気をつけてねと、その女性はすたすたと立ち去った。
死体は街の警備隊のような連中がめんどくさそうに運び出した。
「リリー様、今の見ました? デュエリストですよ」
「デュエリ……なんだって?」
「あっ、すみません。僕、遊戯王が好きで。それより、あんな大きい蜂がいるものでしょうか、化け物みたいな」
「そうねえ、いるんじゃない? いま目の前で見たじゃない」
「そういうことではなくて」
「魔女がいるんだから、他所の国に化け物みたいな蜂がいたっておかしくないでしょう」
腹減ったし早く宿を探そう、とシャーロットが割り込んできた。
市場を抜けると、たくさんの宿が立ち並んでいた。娼婦や男娼を置いた宿が呼び込みをしている。
「普通のとこでいいんだけど……」
大理石の階段を登り、街全体を見渡せる広場に出た。北側に海、南側はどこまでも砂漠が広がっている。
砂漠なんて、世界のふしぎを発見!するクイズ番組でしか見たことがない。砂漠を流れる大河にそって畑と街が広がっている。
「砂しかねーな」
「川沿いは畑なのね」
強い日差しと風で、顔がかゆい。
「旅のお姉さま方、今夜の宿は決まりました?」
突然、スカーフを巻いた女が話しかけてきた。
「私はレネネ、この街のガイドをしています。宿屋やお食事、困ってませんか?」
「そうねえ、とりあえずね、宿を案内してくれるかしら。ガイド料は必要?」
「場所によります。ではこちらへ」
レネネが案内した宿は、かなり大きな建物で、大理石が敷かれたロビー、外にはプールまであった。
値段の交渉はリリーが直接していて、持っていたアメジストで支払っていた。
「あなたのご主人様、お金持ちなんですね」
「ええ、まあ……この国は初めてなんです。おすすめの観光地はありますか」
「神殿と博物館はどうですか? あと、川を下りながらのディナーなんかもおすすめですよ」
まずは昼食ということで、ホテルのレストランに案内された。
メニューがわからないので、おすすめされるものをそのまま頼んだ。
ダウードバシャという、肉団子をトマトソースで煮た料理が人気らしい。エイシバルディという白く大きなパンを付けながら食べた。
意外と食べやすい。
「美味しいわね、スパイスが多くて飽きないわ。酒も頼みましょう」
ビールをジョッキで注文し、魚のフライや、モロヘイヤのスープなどでテーブルがすぐにいっぱいになった。
「リリー様、博物館行きましょう」
「うん? いいけど」
アミシ探しは明日でもいいかと、酔いがまわったリリーは呑気に答えた。
レストランを出て、女神ハトホルの神殿を見学する。
無数の石が積まれたピラミッド……に、四角の土台をつけたような、要塞に近い堅牢な神殿だ。
中に進むと、大勢の観光客が祈りを捧げている。
「……ベリロスね」
ラウネルの、トレニアの家で見た、すみれの女神。彼女の巨大な像が、人々を見下ろしている。
両目はエメラルドがはめ込まれている。
「あー、アレ、本物じゃないんです。水晶に色を塗ってるだけです」
本物は博物館に保管されていると、隣の博物館に案内された。
「女神ハトホルは偉大にして優しい女神でした。もともとひとつのエメラルドを、半分にし、それを人々に与えたのです。しかし、強大な魔力を持つエメラルドだけに、もう半分に割り、力を使いこなせるものが王家になりました。ところが、目にはめ込まれていた、ひとつが盗まれてしまったのです。そして数百年の後、エメラルドは見つかりました」
「ほほう……」
「その者は時の王と結ばれ、女王になりました。そして次々に周辺諸国を制圧し、テル・アルマナは繁栄を極めました。ところが、長く続く戦に、民が反乱を起こし、王朝は滅亡しました。以来、エメラルドを使いこなせる者はなく、この国は商人が支配する国となったのです」
レネネはいつも話しているのだろう、なめらかにエメラルドが失われた理由を話してくれた。
「王家の人間は、エメラルドを持っていたから、魔法が使えたってこと? 普通に魔法を使える人はいないの」
「ええ、当たり前じゃないですか。女神の石があって初めて、強大な魔法を使えるんです。一般人にはムリです」
なるほど、この国では一般人の中に魔法使い、魔女はいないということになっているらしい。
さっき、路地で襲われていた彼女が使っていたのは、それこそ魔法のように思えるが。
それなら、彼女は何者なのか。




