第76話 想定と貞操
ほんの少しですが
百合要素有。
一瞬だったが、ガーネットとしての僕が完全に意識を支配していてた。
透明なガラスの向こうから景色を見ているように、ガーネットとして話している自分が見えた。
「……セティス、ごめん、僕は」
「大丈夫だから。君を嫌いになったりしない。さあ、この像を次期女王にお見せしよう」
完成した女神像を、アカネに引き渡す。収めるための社はすでに完成していると彼女はいい、謝礼を宿に届けると言ってくれた。
「お披露目の準備をするから。アキラまた明日来てくれる?」
約束をして城を出ると、セティスが「ご飯行こう」と手をつないだ。
城門で待っていたリリーが
「アキラ。帰るわよ」
すっと右手を伸ばす。彼女はこういう時だけ所有権を主張してくる。
……僕に逆らえるわけないじゃないか。少しでもリリーが嫉妬してくれているならこんなに嬉しいことはない。
セティスの手を離し、「また明日」と背を向けた。
「アキラ。あんまり女の子に変身しないほうがいいわ」
「彼が好きなのは僕なので大丈夫です」
「なにか大丈夫か、まったくわかんないんだけど!?」
お昼にしましょうと、宿に戻る途中のそば屋でざる蕎麦を食べた。
リリーはカルコスの暮らしにすっかり慣れたようで、ずるずると蕎麦をすするのも平気になったようだ。彼女は買い物に行ってしまったので、一人で宿に戻った。
部屋は無人で、黒百合の女神もシャーロットも出かけているようだった。
港の近くで、海鮮料理を食べ歩くのが最近の楽しみらしく、昼はいつもいない。
窓から、港と城下町を眺めていると、自分が池袋から来たことを忘れそうになる。
昼寝でもしようと座布団を丸めて枕にする。
横になると、違い棚に飾られた、こけしが目に入った。
……ここは、東北なのか?
丸みを帯びたフォルムといい、シンプルな円柱の胴といい、母の実家を思い出した。そして、セティスの言葉も。
『お人形にして、持って帰ろうか』
これはあくまで、仮定だが、リリー・スワンと、セティスが同じ能力をもっているとして、リリー・スワンは、クラウス王子を、人形化して持ち去ったのではないだろうか。
彼女は人形を作る家の娘だ。ダイアモンドナイトの能力で、人間を人形にできるとしたらどうだ。
クラウス王子は生きているとして、物質化されていれば何も食べずにも平気だろう。リリーがいくらシャルルロアで探したところで、人形として隠されているとしたら、見つかるはずがない。
人形にされた王子を見つけ出したとしても、元に戻せるかはわからない。
魔法や呪いのたぐいは、術者が死ねば解けてしまう。だとしたら、リリー・スワンを殺さなければいい。
僕はこけしをぎゅっと握りしめて、窓を閉めた。
「……少し寝よう」
お人形のままの王子を、リリーは果たして愛するだろうか。
それとも、必死になって呪いを解こうとするだろうか。
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ちょっとだけ昼寝したつもりが、気がつけば夕方だった。
「あれ……」
またガーネットになっている。
女の子の体は見慣れてきたけど、勝手が違う。自分で描いた絵が元とは言え、服が薄くて寒い。
その時、リリーと黒百合の女神が戻ってきた。
「あら、アキラ。どうしたの変身して」
「……」
「ガーネット」
「……リリー様、オカエリナさい」
「ただいま。夕食の前に、大浴場行きましょう」
リリーは手はすぐつないでくれる。こういうお姉さんがいてくれたら良かったのに。もし向こうの世界だったら、女子高生だったわけね。
制服でスマホいじってる姿はちょっと想像しただけでも可愛い。
服を脱いで、女湯に入る。髪を洗い、、リリーの背中を流す。網状のボティタオルで石鹸を泡立てて、白い肌にこすりつける。胸が大きくて羨ましい。
「ねえリリー様、何を食べたらこんなに巨乳になるの」
「りんごとハチミツ。諸説あるけどね」
「カレーかよ」
「ガーネットはそのままでいいじゃない。肩凝りしないサイズで」
湯桶で泡を洗い流して、珍しくリリーが「洗ってあげる」と椅子を替わってくれた。
「さっき、女の子に変身しないほうがいいって言ったばかりなんだけど……。何かあった?」
「別に何も」
「そう」
露天風呂に出ると、ちょうど日没で、水平線はオレンジに染まっている。ピンク色がグラデーションになって花びらを思わせるような空だ。
夜が来て朝が来て、いつかはリリーの王子様を助けてあげなくちゃいけない。
そうなったら、こんな時間は二度と来ない。
お湯をかぶって、涙を誤魔化した。まだやれることはあるはずよ。
「ガーネット。どうしたの? なにかあったの?」
「……なにもないです。リリー様はもうちょっとゆっくり入っててください。先に上がりますね」
宿のいいところは、夕食が終わると、布団の上げ下ろしまでしてくれるところだ。
アカネの知り合いということで費用は全てタダになっているし、なんなら、リリーの実家よりも優雅な暮らしだ。
「ねえリリー様」
「なあに」
「一緒に寝てもいい?」
「いいわよガーネット」
布団に滑り込んで、枕を並べた。リリーの細い指に自分の指を絡ませる。
同じ宿のシャンプーと石鹸を使っているのに、彼女はいい香りがする。
彼女は何も言わずに握り返してくれる。どこまで許してくれるのか試したい自分がいるが、ぐっとこらえる。
「ねえ、リリー様。クラウス王子のことなんだけど、私の話、聞いてくれる?」
「……ええ。聞かせて?」
「セティスとリリー・スワンは、お人形屋さんの子供なの。セティスに言われたの、お人形にして、持って帰ろうかって」
「アキラが?」
「うん。だから、ひょっとしたらなんだけど、リリー・スワンも、生きてる人間を、人形にできるのかもしれない」
あくまで仮定の話しなんだけど、想像だけどねと付け足す。
行灯を消した闇の中で、リリーの瞳がキラリと光った。
「……なるほどね。それなら、シャルルロアで探しても見つからないかもしれないわね。どうしたらいいと思う? キスしたら元に戻るのかしら」
「……わからない……」
「うんうん、いいのよ。ガーネット。これから考えればいいわ」
不意に被さってきたリリーの髪で、世界から切り離される。
彼女の唇は柔らかくて、私の初めては奪われてしまった。
「私のために一生懸命考えてくれたのね。……いい子ね」
浴衣の帯を解かれて、リリーの白い指が、胸に触れた。
「……」
「誰にも触らせちゃダメよ」
指の腹で突起を優しく触れられると、電気が走ったようにしびれてくる。
「んっ……」
リリーの唇が首から胸に何度も落とされて、初めての感覚に体が震える。快感に耐えかねて、ぎゅっと抱きつく。
「んっ、あぁん……!」
「我慢しないで」
濡れた舌の感触に、頭が真っ白になって、全身から力が抜けた。
「ご褒美よ。もっとして欲しかったら……、これからも私のために働くの。いいわね?」
このくらいではR18でないと信じたい。




