第72話 エメラルドを探して
宿でくつろいでいると、アカネから呼び出しがあった。用意された馬で城まで出向く。
アカネとレッカは、白衣と袴で、お揃いの装束を着ていた。エメラルドの場所を占うので知っている情報を全部教えてと言われ、返事に困った。
ベリロスの話では、砂の国の奴隷に私、その少女は王と結ばれ、女王になった、それだけだ。
「名前は?」
「教えてくれなかった」
歴代の女王の調べるところからだなと、レッカは城の図書室から周辺国史と書かれた分厚い本を持ってこさせた。
カルコスが独自に近隣諸国の歴史をまとめたもののようだ。
女王だけ名前を書き出して、その中から、血統がはっきりしている者は消去していく。
残ったのは数名、もちろく全員死んでいるはずだ。
その中に気になる経歴を持つ女王がいた。
『……王子に見初められ、不思議な力で外敵を打ち払った女王』
『戦が続き、民の反乱にあい、王もろとも川底へ』
僕たちは、その部分を読み、頷いた。
「不思議な魔力を持っていて」
「外敵を打ち払った……。女王、アミシ」
川底にとわざわざ書かれているということは、死んでいることは間違いないだろう。
「女王のエメラルドはきっと誰かが拾って、今でも王国にあるか、とっくの昔に売り飛ばされてるだろうな。今の持ち主を探そうぜ」
二人は城の前の広場に薪をに用意をさせた。大きな太鼓と敷物が敷かれる。
今度は何が始まるのと、ふらりとリリーが現れた。
「エメラルドがどこにあるか、占ってもらいます」
炎が上がり、正座をしたレッカとアカネは、何か祝詞のようなものを唱えている。
神官たちが打ち鳴らす太鼓の響きが空気をビリビリと震わせた。
「炎よ下僕となれ……!」
4、5メートルほどの高く燃え上がった炎が、鳥の姿になり、いっせいに飛び立った。
「へえ……。あれだけの数の精霊を扱えるのね。二人分なのか、銅の女神の力なのかしら」
炎の鳥が飛び立ってしまうと、すべての薪は燃え尽きていて、神官たちが灰を片付けはじめた。
「何日かかかると思うけど、私達の精霊がエメラルドを見つけてあげる」
「アカネ、ありがとう」
「日本人のよしみよ。私はもう帰ることはないけど、いずれあなたは帰るんでしょう」
「……」
今のままならそうだ、結末を変えないかぎり。
「いずれね……」
「城でご飯食べてく? あなたのご主人も一緒に」
「ふふ、ありがとう。でも今度ね。アキラ宿に戻りましょう」
するりと指を絡めて、リリーが手を引いた。
また後でと、空いてる片手を振った。
「よくやったわね。エメラルドはなんとか見つかりそうね」
二人を、他国を巻き込んで、ご褒美よともらったキスは、おでこ止まり。
何を捧げたら、もっといいモノがもらえるの。
座布団を丸めて、リリーと昼寝する。
……眠っていた時間はほんのわずかだったようだ。
障子越しの淡い陽光が、陰っていく。また夕食までには時間がある。
たとえ日本に戻れたとして、リリーとの日々を忘れるなんてできない。
助けてと小さく呟いて、目をこする。
リリーを起こさないように、しずかに体を起こして、外に出た。
レッカとアカネは、ゴーレムを動かし、新しい墓をつくっていた。
「リリーと帰ったんじゃないのか」
「もう日が暮れるわよ」
「レッカ、アカネ。聞いて」
本当は帰りたくない。
「この世界に留まって、彼女のそばにいたい。帰りたくない。帰りたくないんだ、本当は」
どうしたんだとレッカは、ゴーレムを指揮する手を止めた。
「リリーはクラウス王子を運命の相手だと信じてる。結末はわかってる。僕の居場所は、この世界にはない」
日が沈んでいく空が、血のように赤く見えて、歪む。
「……ねえアキラ。あなたはレッカを助けてくれたわ。私達の結末を、すでに変えてるの。これってすごいことじゃない」
「あの女と、お前の結末はまだ決まってないだろ。できることから、やろうぜ」
ご褒美だけでは誤魔化しきれない痛みを、ようやく吐き出せるようになったアキラ。
次回、現女王と対面することに。




