第71話 フレンドシップ
71
この石をどうしたらいいかな。
宿に戻ると、リリーはスルメを齧りながら、酒を飲んでいた。
手に入れたマラカイトを、レッカとアカネの結婚指輪に加工してくれるように頼む。
「別にいいわよ。カニのお礼よ。指輪にする金属は何か持ってるんでしょうね?」
レッカが、自分の金の腕輪を差し出して、「これで」と頭を下げた。
リリーがマラカイトを握りしめ、オーバル型に形を変化させた。
そしてレッカから受け取った腕輪を、小さな指輪2つに変化させ、石をはめ込んだ。
「……何モンだよ」
「モノの形を変えてるだけよ、たいした魔法じゃないわ」
はいできたわよと、5分もかからずに指輪が完成した。
「……ありがとう、感謝する。アカネも喜ぶ」
「いいえー」
残りの石と金は持って帰りなさいと、レッカに持たせた。
「で? アキラ、そのマラカイトはどうしたの」
「これは、女神カルコスからいただいたものです。彼女の力を使えるようにとお願いしました。それでこれを」
「そうなの!? すごいじゃない、偉いわアキラ」
こぶし大のマラカイトをまじまじとリリーは見つめ、右手で僕の頭をぎゅっと抱き寄せた。
「アキラはこの国に来てから、ひとりで動いてるけど、成果を出してるわね。たいしたものよ」
彼女に褒められるのがなにより嬉しい。
ロッドを貸しなさいと言われ、差し出す。
リリーは、マラカイトを星の形に変化させ、先にチェーンを取り付けた。
「ロッドの先につけてあげるわね。これで、ガーネットとマラカイト、2つの石の力を使えるわ」
「……ありがとうございます! マラカイトは相手の心を見抜いたり、魔除けになるそうです。もし、ダイアモンドナイトの考えがわかれば、倒す以外の方法が見つかるかもしれません」
「話し合いが通じる相手とは思えないけど」
「黒百合の女神も、ベリロスも、カルコスも、話だけは聞いてくれました。相手が神だと思えば、倒すというのは難しいでしょう。まっ、ダメならダメで、返品方法を考えておきましょう」
そのためにも、ダイアモンドナイトと戦えるだけの魔力を手にしなくては。
近づく方法すらまだわからない。手に入れたマラカイトが、助けになってくれるといいのだが。
「この国に来てから、もう何日も経ったけど、エメラルドの情報はあった?」
「……あっ」
「レッカ、あなたは占いができるんでしょう? 聞いてみた?」
「いいえ、すっかり」
「アキラ。私達はこの国に住み着くわけじゃないんだから。旅を続けなきゃならないわ」
レッカの目の前に立ち、リリーは膝を屈めた。
「占いをお願いできるかしら」
「……ちょっと、待ってくれるか」
レッカが僕の腕を引き、部屋を出ようとしたが、
「待ってちょうだい? この子は私のものなの」
と反対の腕をリリーが引っ張った。
「おいアキラを離せよ」
「私の台詞よ。レッカ、話しをしているのは私とあなた。違う?」
「……」
「アカネと一緒に、新しい王になるんでしょう? 気になることがあるなら、自分の目と耳で判断したらいいんじゃない?」
「……その通りだな……」
ようやくレッカは僕の手を離した。
「で、何を占ってほしいんだ」
「銅の女神に姉妹がいることは知ってるわよね。その妹に、ベリロスという女神がいる。彼女のエメラルドを探しているの」
「……女神のエメラルドだって?」
「今どこにあるかわからない、それを占って欲しい。そのために私達はこの国まで来たんだから」
「そのエメラルドが見つかったら、アキラは助かるか」
レッカの問いに僕は「とても助かる」と頷いた。
「さっき、カルコス様と話した時、アキラはとても辛そうだった。あんたは、こいつを、ちゃんと守ってやれんのか」
「ええ。私が主だもの」
「そういうことじゃない、幸せにできるかって聞いてんだ」
ははっとリリーが吹き出し、「何が可笑しい」とレッカが眉を釣り上げた。
「……何様? ああ、神官様だものねえ。アキラの幸せがなにかは、私には決められない。それなのに、簡単に幸せにしてあげるなんて言えないわ」
「なんの保証もなしに、他国との戦いのために連れ回してんのか」
「ええ。そうよ、ただし、アキラは自分の意思で私に付いてきているの。何か問題あるの」
「助けを求めてた、アキラは、苦し」
「困っているなら言ってくれなきゃわからない、私は神様じゃない。でも、これは私達のあいだのコトよ。神官様、君が口をはさむのは何故」
「友達だからだ!」
友達という言葉にリリーの口元がふっと緩んだ。
「……私も、友達を助けたいのよ」
座ってと、畳をたんたんと叩く。
「……私の事情を話さずに、占いだけ頼むのもおかしいな話ね」
リリーに言われるままお茶を淹れた。
「故郷に親友がいてね。その子は、女神のエメラルドを持って帰らないと目を覚まさない。もう2年眠ってる」
「……」
「エメラルドの場所を占ってもらうために、海を渡ってきたのよ。アキラがこの国の政治に口を出したせいで、ちょっぴり時間がかかったけど……。
エメラルドが見つからないと、私は前に進めない。アキラの旅も終わらない、この子の幸せを決めることもできない。でも、君が力を貸してくれるなら、多少はアキラは、幸せに近づけるかもしれないわ」
「……そうなのか……?」
リリーの望む結末と、僕の望む結末は違う。
あなたに愛されたい。
チャンスを作るしかない。
「……そうだよ。レッカ、僕たちに力を貸して」
レッカはリリーに言いくるめられたのが気に障ったようだったが、ようやく、エメラルドの場所を占ってくれると約束してくれた。
「お前のご主人のためじゃないからな、お前のためにやるんだからな」
「……ありがとう、ごめんね」
リリーが小さくウィンクをして、「じゃっ、ひとっ風呂浴びてくるわ」と手をひらひらさせて部屋を出た。
彼女の、人を試すような言動は、なんとかならないものだろうか。
結果として手伝ってくれることにはなったが、わざわざ敵を作るような言い方をしなくてもいいだろうに。
「……なあ、アキラ、お前あの女に利用されてるだけだ」
「彼女の望みなら、王子も助ける、国を滅ぼしたっていい。リリーが幸せになれるなら、それでいい」
「お前は」
「その時に考える!」
僕はまだ何も諦めていない。
「自分が魔女になってでも愛されたいそんな人に出会えたんだ、命をかける価値がある」
まずは、エメラルドを手に入れて、リリーの親友トレニアを目覚めさせる。
一人では解決できないことも、味方が増えれば、なんとかなる。
現に、レッカは協力してくれている。
「レッカ、アカネに指輪、持ってってあげなよ」
「……ああ、そうだな。じゃあ、また明日な」
「うん。またね」
手を振って、扉を閉めて、部屋にひとりきり。
新しい宝石が追加されたロッドを掲げる。別の結末を探せと言われた。
主従じゃなく、友達じゃなく。
「……ねえ、教えて。好きになってもらうにはどうしたらいいのかな……」
昔、ラブリーフレンドシップという名曲があってだな
関係ないんですけどね
レッカは書いてて楽しいんですよショタだから。




