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【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第七章 海の向こうへ~銅の国カルコス
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第68話 楽しい政策・富国強兵

 城に戻ると、玉座の間に大勢の神官や武官たちが詰めかけていた。

 誰もが、殉死を突然廃止したことを責め立てているが、中心にいるアカネは平然としている。


「女神の決定に逆らうなら、あなたたちが代わりになればいい。希望者は全員埋葬してあげる。それでいいわね」

「……」

 死にたいのでしょうとアカネは笑い、他に意見があるかと周囲を見渡した。


「まだレッカの死を望む者がいるなら名乗り出よ」

「……」

「……それは……」

 意見があっても、言えない状況に、神官たちは少しずつ帰っていった。武官たちは「それならお前が死ね」と指を刺されるのを恐れてか、アカネと目を合わせない。


 僕とレッカは「何かあった?」と割り込んでいった。

「みんなは、私が勝手に殉死を取りやめたと思ってるみたい。だから、代わりに誰か死ぬって。それでいいわよね」

「それでいいと思います。アカネ、次の女王の命に従わない奴は、消えてもらえばいいですよ」

 周囲の武官たちが、化け物でも見るような顔をしていた。

 ああ。僕は魔女になってしまったんだな。

「やめろ二人とも。奥で話をしよう」



 レッカの部屋に通される。畳の感触にほっとして、僕は窮屈な女物の靴を脱いだ。

「腹減っただろ」

「ええ。でもいいわ、宿に帰らないと」

 召使いに食事の用意をさせるのを丁寧に断った。宿でリリーが待っているだろう。

 お茶とせんべいをもらい、いくつかの提案があると切り出した。


「銅の女神の神殿は地下で、民は会えないようになっていたよね。代わりに誰でも入れる社を整備したらいいと思うの。女王の墓の周りを公園にして、誰でもいつでも祈りを捧げられるように」

「それで、何の意味がある」

「次の女王が死んだあとにも、同じように社を作らせる」

「それで……?」

「アカネ、レッカ。君たちは人から神になるの。銅の女神は言っていたわ、魂はめぐり続けると。帰ってくる社があれば、あなたたちは永遠に一緒にいられる。この地にとどまることが幸せならそれが一番いい」

「……」

「……」

「永遠に離れられない縁を結ぶの。素敵じゃない」


 ほかにもいくつかの案を提示する。

 公園の整備および王墓の建設を手伝った者は税金を免除する。

 王墓の周囲には埴輪を置いて、埴輪作りに協力した民も同じく免除する。

 民は目先の利益に飛びつく、レッカの殉死を廃止したことなんて、彼らは一瞬で忘れるだろう。

「河川や山林の整備をして、作物の生産を増やす。そして他国への輸出を増やして利益を上げる。

民を富ませる見通しを最初に示して、「次の女王は大丈夫」と思わせる。飢えさせない女王だと信じさせる。そうすれば、民は君に従う」

「そんなにうまくいくか……?」

「うまくいくまでやるのよ。あとは温泉」

「温泉!? なんで!?」

「温泉はいいわよ、民がいつでも入れるように保養地を作ってあげるの。農作業は疲れるからね。温泉地の近くに、女神を祀る神殿を各地に作る。守られているんだと民が解るように」


 レッカにゴーレムの作り方を教えた。

 でもあれは兵士の代わりにはなるが、女神の代わりにはならないだろう。

 たとえば仏像のような、信仰の対象となるようなものを作れたらいいんだけど。

 美しい女神像。信仰の対象と成り得る、品格のあるもの。

「……」

 セティスの力を借りられないだろうか。


 まあいい、後で考えよう。


「女神を祀る神殿を作るのはわかる、でも、そんな一気にはできないわ」

「そのためにゴーレムを利用するの。アカネにも作り方を教えてあげる」


 僕は、リリーから以前聞いた、アメジストの話を思い出していた。

 リリーは、元カレのノア、その弟のカインから一つずつアメジストをもらっている。それはもともとひとつの石だったようだ。

 女神から与えられた石であれば、複数持っていても問題ないようだ。まあ持ち主と女神の間に信頼関係があることが前提ではあるが。

 僕は、黒百合の女神から、アメジストはもらっていない、よって彼女の力を使うことはできない。

 しかし、アカネとレッカであれば、銅の女神カルコスから、女神の力を使うための石をもらえるのではないか。

 3番めの娘の力を扱えれば、ダイアモンドナイトに対抗できるはずだ。


「アカネ、女王が代々受け継ぐ、王冠とか剣とか鏡とか、そういったものはあるのかしら」

「ええ、女王が死んだら次の女王には勾玉が」

 そんなところまで日本に似てるんだな。

 勾玉は、女王だけに与えられるものなら、レッカには行き渡らない。

 新しい石を手に入れなくては。しかも2個。 


「結婚指輪がいいわね」

「え」

「生き神様と女王が結婚したら、誰も逆らわないでしょう。決まりね」


 考える間を与えない、一気に話をまとめる。

 僕が迷いを見せたら、ダメだ。

 

「女神の力も、国を治める責任も、二人で分け合えば怖くない。そうでしょ?」


 その時、にゅっと白い腕が僕の背後から現れた。

 アカネがキャッと悲鳴をあげた。

「帰りましょうか。リリーが待っているから迎えに来たのよ」

「……黒百合、まだ彼女たちに話が」

「あなたの主人は誰? 主に一人で食事をさせる気なの?」


 振りほどけないほどの力で、手を握られ、僕は「明日ね」とだけ言い、部屋から連れ出された。


「まだ話が済んでなかった、どうして邪魔したの」

「リリーが晩ごはんを待っているわ」

「帰らないとは言ってない、黒百合」

 放してとどれだけ訴えても彼女は手から力を抜かなかった。

 

「他国の政に口を出してどういうつもり」

「友達を助けたいだけよ。アカネとレッカは友達だ」

「それで? 友達に兵の作り方を教えて、民に媚びへつらう政策を吹き込んで、アキラ、目的はなに」

 女神の目を欺くことはできないか。

 別に構わない、最終的にリリーの目的を達成することができればそれでいい。

「……富国強兵」

「へえ」

「国を富ませて、兵を強くする。もしシャルルロアと戦になっても、人間の兵士を使うことはない。どちらかに協力してもらえればそれでいい」

「そんなに、うまくいくかしらねえ」

「それがなに? 成功させるまでやるの。リリーのために」


 僕を選んでくれなくても構わない。

 

 ……本当は、イヤ。

 私を選んで欲しい。

「魔女になった以上、リリーの役に立ちたいの」

「……それが本音ならいいけど? 自分に嘘をつき始めたら、苦しくなるのはアンタよ」

 黒百合は結局、宿に着くまで手を放してくれなかった。 

 


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