第67話 楽しいゴーレム作り教室
神を作ろうとする心理ってなんだろうね
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「神になるだって……? どういう意味だ」
話に乗ってきたぞ。
ロッドを取り出して、一歩下がる。
「ゴーレムの作り方を教えてあげる」
ロッドで宙に絵を書いて、ゴーレムを出現させる。
前回より大きく出来た、3メートル程度の紅く輝くゴーレムは、レッカの興味を引くには十分だろう。
「作り手の言うことを聞くわ。土木工事でも戦でも、人を使わずに済む。力持ちの便利な兵士になるわ」
「……こんなものどうやって」
「焦らないで。炎の精霊を呼び出していたわね。出会ったときに、リリー様を探してくれたでしょ、誰から使い方を教わったの?」
「この国の女神からだ。誰にでも使えるわけじゃないから、素質がある者が、選ばれる」
「それなら、簡単ね。まず炎の妖精を呼び出して、仲間を呼んでもらうの。わかりやすく最初からやるわね」
ガレおいで、とロッドを振る。
ふわりとガレが上空から降りてくる。
「大地の妖精を呼んで」
「了解した」
僕のまわりに、金色の羽をもった妖精たちが現れた。
「人の形となれ……変われ!」
周囲の土が盛り上がり、ゴーレムを3体生成した。
「妖精の力を借りるから、術者が疲れることはないわ。魔法を解除するまで命令を聞いてくれる」
「……」
「圧倒的な力で、アカネを守ってあげられるわ」
先程までの疑っていた様子は消え、瞳がキラキラと輝いている。
「私はあなたの味方よ。さっ、練習しましょ」
■
「レッカ、いつまでちんたらやってるの。神官が、妖精ひとつ操れないなんてなさけない」
「こっちだって必死にやってんだ!」
「……必死さが足りないって言ってるの」
僕の本気を見せてあげる。
「試してみたかったの。妖精の力がどれほどのものか。魔女になるってどういうことか」
全力を出して、宙に絵を描く。
「これが今の僕の全力……! 変われ!」
周囲の土を一斉にゴーレムに変化させる。
20、30、50を超えたところで、がくんと力が抜けた。
ガーネットの濃い赤色の兵団を出現させることができた。
「……すげえな……!」
「……素人の魔女でも、ここまでできる。神官のあなたなら、もっと強力な兵を作り出せるわ」
「おい、血が出てるぞ」
ロッドを握りしめた手から、一筋の血が流れ落ちた。
女の子の肌はだめだなあ、柔らかくて。
レッカが何か呪文を唱えると、その傷はすぐに消えた。
「……ありがとう。優しいのね」
「このくらい普通だろ。なあアンタ、なんで、ここまでする? 他国のアンタには関係ないことだろう」
お前たちを利用したいだけだと、とても言えない。
「私はリリー様にお仕えしてる。彼女の国の、王子がさらわれた」
「その王子はどうなった」
「……取り返すわ。それがリリー様の望みだから」
リリーの望みであって、自分の望みではない。
誰よりも自分が解っている。
「おい、泣くなよ。オレがいじめたみたいだろ」
「……えっ……」
「辛そうな顔、してる」
ああ、辛いよ。
彼女の願いが叶ったら、僕の願いは叶わない。
このままでは終われない、そんな未来を受け入れるなんてまっぴらごめんだ。
日が沈み、巨大な兵の影が闇に溶けた。
「私があなたたちを助けてあげる。だから、協力してほしい」
黒百合の女神は、味方を作れと言っていた。
それは僕の力のひとつだ。
神だって作ってみせようじゃないか。生きたいように生きなきゃ、やりたいことをやらなきゃ、生きてる意味なんてないじゃないか。
好きな人といられないなら、意味はない。
そんな毎日なら、死んでいるのと同じことだ。
「変えたい未来があるの」
「……アンタにはアンタの事情があるんだな。これほどの兵を一瞬で作れるんだ、アンタはリリーのために戦ってんだな」
レッカの指が僕の頬の涙をぬぐった。
「さっきは悪かったな。今のアンタは、悪い魔女には、思えない」
「……騙されてるだけかもしれないよ?」
「いいさ。騙されてんならオレはその程度ってことだろ」
夜の闇が森を覆い隠した。
「……大地の精霊よ、オレに従え!」
深いところからの振動が伝わる。周囲の土が形を成し、レッカがようやくゴーレムを作り出すことに成功した。
「銅の国カルコスは、アンタに協力する。城に戻ろうぜ」




