第66話 至純と使嗾
「勝手に殉死を廃止するなんてどういうつもりだアカネ」
城に戻ると、レッカが血相を変えてアカネに詰め寄った。
「次期女王は私よ。どうするかは私が決めるわ」
お触れを出せとアカネは命じ、兵たちが立て札を書き始めた。
僕の姿に気づいたレッカが、「お前、昨日の……!アカネに何を吹き込んだ!?」
と胸ぐらを掴んだ。
マンガみたいだ。
彼を納得させなければ。
「僕の話を聞いてください。二人だけで」
「なんだと……!? 何故オレが」
「二人だけで聞いて欲しいんです」
任せてとアカネに目配せをする。
城の外に、レッカを連れ出した。
「あいつに何を言った。返答次第では今ここで斬り捨てる」
「神官のわりに剣を持ってるんですね。まあいいです」
剣を喉元に突きつけられても、それほど恐怖は感じなかった。
殺意が感じられない。リリーが怒った時の方がよっぽど怖かった。
「僕を殺せるとでも? 妖精を操れるのは、君だけじゃない。……僕の力を、見せてあげる」
ロッドを取り出し、変われと唱える。
ガーネットの姿に変化する様子に、レッカは後ずさった。
「……お前……、女だったのか」
「驚いた? ガーネットは仮の姿。そのかわり、魔法を使えるようになった。こんなふうにね」
ロッドを大きく降り、雪の結晶を描いて、
「ガレ、汝に命じる、雪を呼べ!」
強風が雪を降らせ、一面が真っ白に覆われる。
「なんだ……剣が!?」
「凍りつかせることぐらいできる」
「魔女だったのか」
「そう。火をつけるのも、風を呼ぶのも雪を降らせるのも同じこと。凍死したくなければ、話を聞いて」
氷の槍を作り出して、喉元に押し当てる。
「傷つけたりしない。約束する。話を聞いてほしいだけ」
どこか、人に聞かれない場所はない?
氷の槍と雪を溶かして、景色が元に戻ったのをレッカは黙って見つめていた。
「……氷を操る魔女……。お前は一体……?」
「私のことはいいの。今考えないといけないことは、アカネと自分のこと。違う?」
町外れに社があると、レッカが指差した。
海岸を臨む小高い丘に登る。
傾斜が思いの外きつい、ふくらはぎが痛む。なにもガーネットの姿でなくてよかったなと後悔するが、後の祭りだ。
城下町を見守るように、神社によく似た建物があった。
「ここでアカネと出会った。オレは神官としてこの社で修行中だった時の話だ。ぼろぼろに傷ついた体で、倒れていた」
「連れて帰ったの」
「放っておけるか。今よりもっと小さくて、町の人々は彼女を『マレビト』と呼んだ」
「マレビト?」
「異国の言葉を話し、知らない世界のことを話した。遠くからやってきた、神だと」
「……普通の女の子よ」
「オレにもそう見えた」
だから、放っておけなかったんだ。
この国の連中は、アカネを珍しい動物を見るように扱ったから。
「女神に頼んだんだ。アカネをまともに扱うように、巫女としてここにいさせてほしいって」
「……優しいのね」
その優しさを利用しない手はない。
「アカネのこと……。好きなのね」
「当たり前だ」
それなら話は早い。
同郷のアカネを助けたいという思いだけで、レッカの殉死を止めさせたわけではない。
「アカネが女王になったら、あなたが、彼女を支えてあげなくちゃ。国外の者が女王になるとなったら反発するものが出てくるでしょう。
ひょっとしたら、あなたたちふたりとも殺されるかも」
「……どうしろって言うんだよ」
「民は自分たちを富ましてくれる者に従う。民を味方につけて、誰にも文句を言わせないようにするのよ」
「何をさせるつもりだよ」
「詳しいことは、アカネと一緒に話しましょう。私に考えが。別に私を信じてくれなくて構わない。二人で話を聞いた上で判断したらいいわ。あなたがアカネを守ってあげなくちゃ」
この二人は味方につけなくてはならない。
僕の望みを叶えるために。
「あなたが神になるの。私が力を貸してあげる」
アキラの作戦をお楽しみに! 次も読んでくれよな!




