表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第七章 海の向こうへ~銅の国カルコス
66/155

第64話 前葬と次期女王

今回は字数少なめでサクっと読めます!

 茶碗に盛られた白く輝くご飯、豆腐の味噌汁、卵焼きに梅干し。

 久しぶりの和食に感動して、泣きながら白米をかきこむ。


「うっうっ、ご飯おいしい……。梅干しすっぱい……」

「アキラ、お腹空いてたの……?」

「違います、僕の故郷の食事に似ていて美味しくて……」

「そうね、良かったわね。なんなのこの赤いの」

 リリーはつんつんと梅干しを箸でつついた。

「ぐにゃっとしてる、コレ腐ってない?」

「腐ってません、酸っぱいですから僕が代わりに食べますね」


 僕の食べっぷりに、仲居さんが、白米のおかわりと、卵焼きを余分に出してくれた。

 まだ町に出るには時間があるので、リリーは朝風呂に行った。

 その間に「今日も町の広場で祭りがあるので、よろしかったらどうぞ」と仲居が、小さな花束と線香を渡してきた。


「ほら、お通りになりますよ。レッカ様です」


 昨夜の赤い髪の子だ。

 輿に載せられたレッカは、花の首飾りと、花輪を頭に乗せて運ばれている。


「生き神様ですよ」

「生き神?」

「力のある人は神になります。レッカ様はこれから本当の神になられるのですよ」

 これからとはどういう意味だろう。

 今現在、生き神なら、本物の神じゃないか。


 行列は宿の前の道路を通り過ぎ、消えていった。

 リリーが風呂から戻り着替える間に、行列のことを話した。

「じゃあ、行ってみようか」


 町の中心の広場で、組まれた木が燃やされている。

 なんていうのだったか、キャンプファイヤーじゃないし、お寺でやってるやつ。

 なんだっけ、ゴマとかそういう名前の。


 その炎の向こうに、輿に乗せられたレッカの姿があった。


 花で飾られたレッカは、唇に紅をさして、作り物のように座っている。

 たくさんの坊さんなのか神官なのかわからないが、お経のようなものを唱えている。

 祝詞なのか読経なのか、僕には区別がつかない。

 その先頭にいるのは、昨夜、出会ったアカネだった。

 

 音を立てて燃やされる祭壇に、町の人々が花を投げ入れている。

 そして祭壇に線香が供えられる。


(……これは……葬式だ……)

 死体こそないが、誰かを弔っているんだ。

 お祭りではない。


 リリーと僕は、一度町を回って、また戻ってくることにした。

 花を手向ける列は長く続いている。


 列に並んでいる人に「なんの儀式なの」とリリーが尋ねた。

「女王がそろそろお亡くなりになるの。送り出すための前葬よ」

 死ぬ前に葬式を出すとは新しいな。

「かわいそうに、神官のレッカ様も殉死だそうだよ。まだ子供なのに」


 殉死ってなんですか、とリリーに聞くと、「主人の死後に一緒に死ぬことよ。忠誠を示すためにね」と教えてくれた。


 じゃあ、彼は、もうすぐ。


「だからお花を捧げられていたのね」

「……」

「まあ他国の風習に口を出しても仕方ない。行きましょう」

「リリー様、アカネに会いに行きましょう」


 広場に戻ると、レッカやアカネたちの姿はなかった。殻になった輿の前で、燃え続ける炎に向かって、花を捧げるだけになっていた。

 線香の煙が空に向かって伸びている。

 片付けをしている神官を捕まえ、アカネに会えるか聞いた。

「城へ行けばお会いになれます。旅の方ですか」

「はい」

「謁見の時間が決まっています。日が暮れると鐘が鳴ります。その時刻には城から出されますので気をつけて」


 門をすぎると、城というより、巨大な寺院のような建物が現れた。

 警備の兵士はいるが、別に武器を調べられるわけでもなく、仁王様のような像を通り過ぎる。


「次期女王がお会いになられる。失礼のないように」


 王の間に通されると、驚いたことにそこは畳敷きだった。

 一段高くなったところに、空の玉座があった。

 その前にアカネは座っていた。


「あなたたちは……。昨日の」

 僕たちの姿に気づいたアカネが、そこから降りてきた。

「次期女王とは知らず、失礼致しました」


 座布団を出され、リリーは不思議そうな顔で、僕を真似て膝を折った。

「広場で、葬式を見ました。……女王というのは」

「病が治らなくて。もう長くないでしょう。死者が迷わないように、先に葬式をして、道を作るのよ」

「殉死する者もいるとか」

「……」

「あの……。彼とは、親しいのではないのですか」

「……」


 彼女は心を隠すようにそっと目を細めた。

 

「彼は、女王陛下の召使い兼、預言者なの。神の言葉を民に伝える者。女王が死んだら一緒に死ななければならないの」

「どうしてですか」

「習わしだからよ。ずっとそうしてきた」

「……それ、誰が決めたんですか」

 意味のない問いだ、失敗した。もともと日本で暮らしていた彼女にわかるわけがない。


「……アカネさん、いや、山城さん。殉死に意味がないことはわかっているはずです」

「ええ。そうよ。意味なんてない」

「……彼が死ぬのを黙って見てて、いいんですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ