表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/155

第57話 温泉に行こう

57


 そうと決まればと、さっさと寝ることにする。

 リリーと自分の分の毛布を借りて、教会の空き部屋で眠る。

 抱きしめてくれるリリーの腕の中で、押し倒す勇気もない僕は目を閉じたり開けたりを繰り返す。弟ぐらいにしか思われていないんだろうな。

 朝になったら、なにか変わるといい。

 そんなことを繰り返し繰り返し思いながら生きてきた。

 学校も家も退屈だった。美人の胸で眠れる今夜は、以前よりはずっと楽しいはずなのに。一緒にいて感じる孤独の方が、辛い。

 あなたを手に入れるには、何を手に入れたらいい?

 子猫のように丸まって、寄り添って眠るリリーの頬に触れる。そのまま指を何も塗っていない唇に軽く押し当てる。

 僕のことも食べてくれていいのに。



 翌朝。朝食を済ませて、ローズルに国に帰ると告げた。

「お構いもしませんで。妻をよろしく頼みますよ」

 黒百合の女神は、「もっとゆっくりしていきなさいよ」とのんびりしていたが、

「またお別れだね、妻よ。私の愛はいつもここにある。いつでも戻っておいで」

 と諭されていた。

「なにかあったら呼んでね。すぐに戻るから」

 キスを交わして別れの挨拶を済ませる。

「王子様探しの助けになればいいのだけど……。アキラ、東の国に行ってみるといい。3番目の娘が治める国だ」

「3番目の娘……」

「きっと君の力になってくれるだろう。頼み方が大事だよ」


 ローズルに見送られて、僕たちはランズエンドを後にした。



 ラウネル村に戻り、トレニアの家へ向かう。シャーロットはトレニアのベッドで丸くなっていた。猫はいいなあ。

 アゼナが用意してくれたパンをスープで流し込む。

「おばさん、昔、私とトレニアで温泉に行ったことってあった?」

「リリーとは日帰りで行ったんじゃないかしら。バート・ヴィースゼの泉に」

「湖のそばね」


 村からは徒歩で2日かかる、空を飛べれば2時間で着くそうだ。

「うちのおばあちゃんが、足を痛めた時に泊まったわ。その時はトレニアはいなかったけど」

「1週間も学校を休むのはどうかなと思って、その時は着いていかせなかったのよ。リリーが、温泉で友達ができたって話してたわよ」

「……」

 リリーは、スプーンをおいて、宙を仰いだ。

 あ、これ覚えてない顔だ。

 まったく覚えてないですね。


「そんなこと言ったあ……?」

「ええ、服をたくさん持ってる女の子だったって」

 アゼナが林檎を剥いて出してくれた。

 シャーロットが鳥を焼く香ばしい匂いが、台所から流れてくる。

「リリー様、行ってみましょう。現地で温泉に浸かったらなにか思い出すかもしれません」

「そうね」


 食後の紅茶を飲み終えると、シャーロットがチキンとトマトを挟んだサンドイッチを用意してくれていた。

「持ってけ。俺とお母さんで、お前んち掃除しておくから」

「ありがと、シャーロット」





 箒で森を飛び越え、バート・ヴィースゼと呼ばれる温泉地についた。

 硫黄の匂いが懐かしい。


「大きな温泉なんですか?」

「いいや、川よ。自分で掘るの」

 よく見ると、川から湯気が立ち上っている。


 川岸のどこでもすきなところを掘って、石を並べて温度を調節すると立て札に温泉の入り方が書いてある。

 混浴のようだ。入浴用の巻きスカートを手渡される。これは胸まで上げれば女性も使えるデザインだ。

 これは楽しいな。いそいそとスコップを借り、掘り始める。

 肩まで浸かる深さにするのは、なかなか骨が折れた。ところどころ、熱い湯が吹き出しているが、それが足の裏にあたって気持ちいい。

 リリーは髪をまとめて、豪快に川底を掘っている。白い太ももが、赤くなっている。


 満足する広さになったのか、ようやくリリーがお湯に浸かると、ふー、と息をついた。

「気持ちいいですね」

「ほんとね、風があって涼しいし」

 隠していても隠しきれないボリュームの胸を楽しませていただく。真っ白の肌が、熱さでだんだん赤くなり、首筋から汗が滴る。

 

 リリーはお風呂はあまり気にしないで一緒に入ってくれる。

 ラウネルの村に戻ったら、樽かなんかで、一緒に入れるサイズの風呂を作ろう。絶対にだ。

 上気したリリーの素肌を見ながら誓う。

 

「転ばないようにね、川自体は流れが早いから溺れないように。調子乗って泳ごうとすると流され……あっ」

「あ?」

「溺れた女の子を助けたことがあるわ」

 そうよ、湯治に来て二日目あたりの、お昼だったとリリーは手を打った。

「金髪の女の子だった、家族がすぐ、すっ飛んできて」

「リリー・スワンじゃないんですか」

「名前まで覚えてない、あー、でも、別荘があって、そこにお礼に呼ばれたわ」

「それだ。行きましょう」

「えー、まだお風呂……」

「いいから!」


 お湯からリリーを立たせると、タオルを渡して背中を押した。

 もうちょっと深い谷間を堪能したかったけど、仕方ない。

 リリーには思い出してもらわなくては。



もうちょっとでブクマが100件なので、どうぞよろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ