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第54話 まさか僕が憧れの魔法少女に?

魔女っ娘になりたかった人生……と一度でも思ったことがある人は全員読んでね

 このままで終わりたくない、諦めながら生きるのは嫌だ。


「アキラさんといいましたね。私は神官なので、人を殺す力を与えることはできません。でももし、挑戦する気があるのなら提案があります」


 祭壇には布がかけられていて、その上は黒百合の女神の像が置かれている。これも彼がひとりで制作したのだろう。

 女神像の下の布をめくりあげると、下には銀色の箱が収められていた。

 それを開けると中から、宝冠が現れた。

「旧ラウネル王国の宝冠です」

「王冠を……持ってきたんですか!?」

「ええ。別に王冠がなくても、王国がなくても、人間たちは繁殖しましたし、新しい王も生まれた。いまやこれはただのガラクタです」

「いや、そうかも知れませんけど、国にとっては大事なものだったんじゃ」

「当時はそうだったと思いますよ」

「ならどうして」

「彼女は私を縛り付けていた常識をすべて取り除いてくれました。欲しいものを欲しいと言っていいと。宝冠を盗み出してきたのは、ただ単に、仕えていたものが、教会から本物の神に代わったことを示すためでした。私は結果として国を滅ぼしたことになりますが、

彼女への愛に勝るものはありません。今でもです」


 持ってみますかと、宝冠を手渡され、慌てて受け止める。


「この王冠についているのはガーネットです。肌身離さず身につけることで持ち主と石の間に絆が結ばれ、幸福を招いて災いを除ける力があります」


 ずっしりとした王冠の真ん中についているのはガーネットなのか。宝石の名前はルビーとサファイアとエメラルドあたりしかわからない。あ、アメジストもわかる。ダイヤモンドとパールも。


「この石をあなたが受け継ぐなら、リリーさんのように魔法を使えるようになります」

「……!」

「あらあアキラ、いつの間に王様になっちゃったの?」

 僕が驚いて顔をあげると、後ろから、にゅっと白い腕が伸びてきた。


「よく似合うじゃない。国も持たぬ王様なんて滑稽だけど」

「こら、よしなさい」


 ひょいと黒百合の女神は僕から王冠を取り上げ、ガーネットを素手で外した。


「持ち主のいない王冠なんてガラクタと同じよ。誰かに使ってもらった方が喜ぶわ」

 楕円形に磨かれたこぶし大のガーネットは、深い赤に金がきらきらと混じっている。

 血のようにも土のようにも見える赤は心臓みたいだ。


「魔女になる?」


 ひらりと翻る彼女の黒いドレスの裾を見ていた。

 言葉は耳に入るが、意味が理解できず、首をかしげた。


 なんだって? 男でも魔女になれるのか。


「リリーやシャルルロアのリリー・スワンのように、石があれば魔女になれるわ。このガーネットは誰のものでもないから」

「……女の子になっちゃうんですか?」

「前に何回か変身させてあげたとあるでしょ。自分でできるようにしてあげるわ。その時に、魔法を使えるようにしてあげる」

「……どうして」

「母様の協力が得られそうにないから、仕方ないし手伝ってやろうという私の優しさよ。アキラ、あんたが魔法を使えるようになるなら、王子探しも進むでしょう。私は何もしなくて済むわ」

 代替案よと彼女は両手を広げた。


「味方がいないなら作ればいい。力がないなら借りればいいわ」

 めんどさがりの、ぶっきらぼうな女神。しかし彼女は、冷たいわけではない。

 どちらかといえば、おせっかいなところもある。

 僕はローズルがなぜ彼女に惹かれたのかわかった気がした。

 人間の欲望を否定しない、むしろ手を貸してくれるような、どこか女神としては甘い彼女。 

 最初の一歩をやすやすと出させてしまう、そんな神。


 僕も黒百合の女神の力を、手にできるのでは?


「どんな力が手に入るかは、やってみないとわからないけど」

「やります」

「あら、話が早いわね」

「でも、普通の僕に、魔法が使えるようになるでしょうか」


「普通!? 君は別の世界からやってきて、魔女に拾われて、滅びた王国の王冠を手にしている。すでに普通じゃないわ」


 黒百合の女神とローズルは楽しそうに笑い、僕もつられて笑ってしまった。

 確かにそうだ。

 日本に帰れる保証はないなら、魔法ぐらい使えるようになったって、罰は当たらないだろう。

「ははっ……そうですね! 魔女っ娘になれるなんて、夢のようです」

「マジョッコ?」

「僕の国では、幼い魔女のことをそう呼ぶんです」


 それならと黒百合の女神は、僕にガーネットを手渡した。右手にガーネットを乗せ、その上に彼女も手を重ねた。


「目を覚ましなさい。力を借りたい」


 ガーネットの内側から光が広がっていく。

 その中から、透き通る赤い羽根をした妖精が現れた。


「私を呼んだのは誰」




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