表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/155

第52話 『石のなかにいる』

52 石のなかにいる


 いつの間にか、長い髪に、ドレスを纏った女王が玉座についている。

 背が……高い。

 高いというより、玉座自体が巨大だ。ベールに覆われているのはわかるが、見上げても顔すら見ることができない。修学旅行で見た奈良の大仏ほどの巨大さだ。顔は見えないけど。

 光を放つ杖を右手に持っている。

 


「娘よ、何故戻った。して、お前は何番目の娘か」

「7番目です」

 適当な親だな……!

 

「そちらの子供たちは」

「私の友達よ。お母様、お願いがあるの」

「働かない娘の頼みなど聞かぬぞ」


 まあまあ母上、とローズルがリリーと僕を前に出した。

「困りごとがあるから、遠くから子供たちが参ったのです。話だけでも聞いてくださいませ」


 手短にねと、ローズルはリリーの背中をつついた。うやうやしくリリーは一礼し、僕も頭を下げた。


「私はリリー・ロック。私の国の王子が、シャルルロアに攫われました。シャルルロアはダイアモンドナイトが治める国、ダイアモンドナイトもあなたの娘でしょう」

「いかにも」

「子が悪さをしたら、叱るのが親の役目ではないかしら」

「なるほど。数百年会っていない娘、すでに手を離れた娘の世話を、私がせねばならぬかの。人間たちの国のこと、お前たちが考えるべきことではないか」

 まあそうなんですけどね。


「王子が一人消えたとてなんだ。別のものを王にすればよい」

「私の恋人なのよ。返してもらわないと困ります」

「例えば、飢えた子がりんごを望んだとしよう。与えてやるのは、親の役目。しかし、実ったりんごの、ひとつひとつの行方まで、私が見ていなければならないか? それは人の子の自由であるべき」


 子供の喧嘩に親がしゃしゃり出ていく必要はない。確かにその通りなのだが、現に問題が解決しないからこうして出向いている。


「女神の……母上様。お尋ねします」

「何か。申してみよ」

「僕は、アキラといいます。ラウネルの王子クラウスが、今どこにいるか、探してもらうことはできませんか」

 女王の表情は見えないがきっと苦笑しているだろう。


「私は人の世に干渉しないと言ったつもりだったが、伝わらなんだか」

「おかしいではありませんか。あなたは娘を人の世に干渉するために地上に降ろしたのでしょう。今現在、僕たちは困っているのです。あなたの娘が原因で。

無責任とそしるつもりはありません。ただ、少しだけ力を貸していただきたいのです」

 

「リリー様は私の主人。彼女はあなたの娘の友です。ラウネルの王子はあなたの娘の国の子。

生きているかだけでも教えていただきたいのです。この通りです」


 床に手をついて頭を下げる。困ったときは土下座に限る。 


「なぜそこまでする」

 しれたこと、クラウスが死んだと判れば、別れてもらうことができる。

 死んでいれば、リリーに諦めてもらうことができる。

「王子が生きていると信じているから」


 僕は神の前で嘘をついた。

 自分に嘘をつくより、ましだろう。

 僕の声が届いたのか、

「クラウスは生きておる」


 光が満ちたと思ったら、映像が目の前に現れた。大きなプロジェクターのように、近すぎてぼんやりとしている。

 岩石だろうか、柔らかい銀色の石の中、少年が眠っているように見える。


「石のなかにいる」


 彼が、クラウス。

 銀色の髪に透き通るような白い肌。

 僕は、ガーネットに変身した時の僕をリリーが可愛がってくれる理由を悟った。

 彼の姿はガーネットに似ていた。まるで双子だ。


「……生きているのね……」


 ご協力ありがとう、リリーは一礼して王の間を駆け出して行った。


 立ち尽くす僕に一瞥もくれずに。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ