第43話 雨の夜、初めての夜
初めてっていってもいろいろありますよね
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土砂降りになった雨の中、僕たちはリリーの自宅へ走った。
リリーの家は無人だっただけあり、そこら中に埃が溜まり白くなっている。
すぐに窓を開けて換気をする。
まいったまいった、とリリーは引き出しから布を取り出し、僕の髪をごしごしと拭いてくれた。
「冷えちゃったわね」
暖炉で、リリーは埃をかぶったテーブルクロスを燃やした。部屋の隅の薪を突っ込む。少し湿気った薪から煙が立ち上る。
「さすがに湿気てるか。アキラ脱ぎなさい、風邪をひくわ」
そう言いながらリリーはざっと床を雑巾がけして、椅子をガタゴトと運んできた。
「大丈夫です」
「風邪を引いてからじゃ遅いわ。まずいパン粥食べたいの?」
パンを牛乳で煮たアレは、見た目がゲロっぽくて不味そうだったな……。
二階からシーツを持ってくると、リリーは僕を全裸にしてシーツをかぶせた。
「火に当たってなさい、すぐに戻るから」
パンとチーズを買ってくる、とリリーは雨の中飛び出した。
面倒見がいいところは、普通の女の子なのに。
改めて、リリーの自宅は、質素なつくりで、木製のテーブルと椅子、暖炉があり、その奥に台所と、もう一部屋ある。
窓から見える庭は雑草が生い茂っている。ひょっとしたらハーブなのかもしれないが。
二階はリリーの部屋があるらしい。
暖をとっていても、なかなか寒気が収まらない。冷や汗が全身を伝ってるのがわかる。
ひとりきりで待つ部屋は静かで、落ち着かない。
家にいたくなくて、夜の街に逃げ出した、あの日も雨だった。僕に声をかけてホテルに連れ込んだ人も、優しくしてくれたっけ。
初めての夜は、結局、最後まで相手にまかせて大人にしてもらった。
家まで送ってもらっても部屋には誰もおらず、真っ暗だった。
窓を叩く雨音が、そんなことを急に思い出させた。目の前の暖炉の火に手をかざして、リリーの帰りを待つ。
椅子に腰掛けたまま、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「アキラ、具合はどう? まだ寒い?」
「……おかえり、リリー様。ちょっと、寒いです……」
「仕方ないわね、立ちなさい、ベッドで寝なさい」
ひょいとしゃがんで、僕の腕を肩にまわして立ち上がる。リリーに連れられ、二階のベッドに運ばれた。
窓は開け放たれており、埃っぽさは少し収まっている。
「汗拭いてあげる」
ベッドに寝かされ、汗ばんだ肌を拭きとられる。首元に白い手が差し込まれる感触に全身が反応してしまう。
「……ん」
「変な声出さないの」
もっと触れて欲しい。
悪寒が止まらないのに、触られたところの熱はおさまらないんだな。
「……さむいです、あっためてください」
リリーの手を掴んで、お願いしてみる。
「……」
仕方ないわね、とするりと彼女は服を脱いで、ベッドに滑り込んできた。
暗闇の中で、白く透けるような彼女の胸に包まれる。
いつも寝てた男たちとは違う、甘い香りにくらくらする。
きっと、おいしいんだろうな……。
「……やめなさいっ……っ、んっ……」
「あたためてくれるんでしょう?」
「しゃべらないで……っ」
鼓動の激しさに、僕の心臓も破裂しそう。
「嫌なら、断ってください」
「……」
「女の子としたことはありませんけど、経験なら結構ありますから」
すぐ隣の彼女の柔らかさに引き寄せられる。記憶を頼りにしたぎこちない動きでも、すぐに彼女の肌が震え始めた。
「……」
え、まさか、したことない?
こんな、男好きする体をしといて?
「……アキラ、ごめんね。イヤなんじゃないの。風邪ひいてフラフラしてるのに、無理に大人になろうとしなくていいわ」
リリーが僕をうつ伏せにすると、後ろから手を伸ばして、そっと僕を包み込んだ。
「いけない子ね」
「リリー様っ……! いやだ、待っ……!」
たちまち、僕は追い詰められた。
「おやすみ、アキラ」
この程度の描写ならOKでしょうか。




