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第41話 黒百合の女神とすみれの女神

黒百合の女神と、リリーの祖母・ローズが出ます。

 トレニアの家を飛び出し、箒にシャーロットを乗せ、自宅まで飛ぶ。

 あちこちで燃えていた炎は、少しずつ消火されて、焦げた肉の匂いと崩れ落ちる家々の煙の中で小さくなっている。

 親友の命の火が消える前になんとか、なんとかしなくては。


「おばあちゃん! 黒百合の女神を呼んで、今すぐに!!」

「リリー? お前、トレニアはどうしたんだい」


 祖母はローズといい、先の戦闘で傷を負った村人たちを介抱していた。


「死にかけているの、時間がないの!!」

「……黒百合の女神に何を頼むつもり」

「あとで説明するわ、お願い、私ではトレニアを助けられない」


 孫の懇願に、祖母は仕方なく外に出ると、持っていた杖をかざし、なにか唱えはじめた。


「……」


 地面が光を放ち、目の前に黒百合の女神が現れた。

 2年ぶりに会った女神は、以前と変わらない姿で、焼け落ちた村の闇の中で、白い肌はほのかに輝いていた。

 黒いドレスに、長い長い黒髪、冷たく笑みを浮かべた白い顔にアメジストの瞳が輝いている。


「ローズ久しぶりじゃない。私を呼び出すなんて、どういう心境の変化かしら?」

「リリーが頼みたいことがあると」

「どうして村が燃えているの? 戦でも起きた?」

 他人事のように周りをキョロキョロと見渡す。


「……まあね!! 久しぶり、話はあとよ、友達を助けて」

「あらあらまあまあ。リリー、大きくなったわねえ。何をしようか?」

「一緒に来て!」



 黒百合の女神を連れ、トレニアの家へ駆けこむ。


「連れてきたわ!!」


 ベッドの上の、小さくなったトレニアはまだ生きていた。

 おそらくは、ベリロスがもたせてくれたのだろう。


「ベリロス姉様」


 黒百合の女神が目を見開いて、テーブルの上の、すみれの鉢に腰掛ける小さな女神に話しかけた。


「妹よ、久しぶりね」

 別に再会を喜んでいる様子もない。

 ベリロスは、あまり家族に関心がないようだ。


「姉様。何をしているのです。人間と関わるのはやめたのではなかったの」

「私はもう関わるつもりはなかった。気まぐれで、人間の娘を助けたらこれだ」

「……その娘は、姉様が助けたってこと? リリー、どういうことなの」


 姉妹であることは本当のようだが、同じ村にいながら、没交渉だったらしい。

 トレニアが子供のころに助けられたとアゼナが説明をし、二度目の助命を頼んでいる。


「一度目はともかく、二度も助ける義理はないわ。姉様がそう言うなら、私がしてやれることはないわ」

「そんな! リリーの友達でしょう、お願いよ、この通りだから」

「私はリリーとローズの友達よ。アゼナ、お前になにをしてやる義理もないわねえ。第一、私は姉様が近所にいたことも知らなかった」


 ベリロスは口を挟むことも、情にほだされるわけでもなく、鉢植えに寄りかかって様子を眺めている。

 黒百合の女神はお喋りで、過干渉だ。

 姉妹でありながら、人間に対する態度は真逆のようだ。


「……ベリロス、人間が嫌い?」

 彼女は、私を見上げて、「ええ」とだけ答える。


「お前たちは何も学ばず、自分のたちの好きなような振舞う。それならそれで構わない。私が力を貸してやる必要もあるまい。好きなように生きればいい」

「……そうよ。生きたいのよ。トレニアは、まだ」

「それで」

「トレニアのお母さんが、助けられなかったのは、彼女のせいじゃないわよ。隣国のゴーレム共が……攻めてきたから」

「死ぬときは死ぬ。それが生き物の摂理」

「まだ生きてる」

「返せと言っているの。私の力だ」

「必ず返すわ。ただ、少しだけ時間を……時間をちょうだい」

「何故」

「私が、葉っぱ一枚分の力に、変わるものを用意するわ。それならどうかしら」


 神に対して交換条件を出すなんて分を越えている。

 それでも、トレニアを助けたい。たった一人の親友だ。


「話したいことがまだたくさんあるの」

「……」

「私は、あなたの妹の友達よ。妹に免じて、お願いよ」

「……ちょっと、勝手に私を使わないで頂戴」と黒百合の女神が口を挟んだ。


 黒百合の女神は、姉妹がいるなんて一言も話してくれなかった。

 あとで小一時間問い詰めよう。


「……ふっ。友達面か。アゼナとて出会った当初は、私を大切にしてくれていたのに。私のまわりは、私を利用しようとする奴ばかり」


 斧を降ろしたベリロスは、私の顔をまじまじと見ると、ふっと肩を落とした。


「リリーといったな。自然の理を破る勇気がお前にあるのか」

「いま助けてもらっても、いずれは私たちはみな死ぬんでしょ。それは自然の理を破ることにはならないわ。あくまで、ちょっと延長してもらうだけよ。私はお願いをしているだけ」

「……私と交渉しようとはいい度胸だ。まあ、合格としてやろう」


 やっと、ベリロスが話にのってくれた。


 何を頼まれるかわかったものではないが、こちらから提案した以上はなんでも聞かなければならない。

 それで、トレニアが助かるのなら、構わない。


「いいだろう、妹の友とやら。交換条件だ。私が言うものを探し出して持ってこい。そうすれば、トレニアには、もう一度だけ命を与えてやろう」




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