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第40話 6番目の女神・ベリロス

花の女神ですが斧装備です。

 その時の様子は、よく覚えている。


「お願いがあるの」

 トレニアの母・アゼナが、すみれの鉢植えに呼びかけると、光り輝く小さな妖精が現れた。


 それは、緑色のドレスに身を包んで、足元まで届く長いエメラルド色の髪をしていた。そして大きな目に長いまつ毛、可憐な容姿にそぐわない、巨大な斧を携えていた。

 

「娘が死にかけている、もう一度だけどうか助けて」

「お前の娘は一度助けてやった。また死んだのか。何があった」


 その妖精は、挨拶もなしに無茶を言うアゼナに冷たく問いかけた。


「輝くゴーレムが村を襲ったの。おそらく、ラウネル城も……もう……」

「どうして母親なら守ってやらないのか」

 

 その妖精は、顔色一つ変えず、アゼナを尋ねた。

 

「おばさん、どういうこと。トレニアは一度死んでるってこと?」

「リリー。トレニアは3歳のころ、死んでいるの。一度だけよって彼女に助けてもらったのよ」

「彼女は何者なの、妖精みたいに見えるけど。普通死んだら生き返らないでしょ」

「普通はね。……彼女はベリロス。小さき者たちの女神。すみれの花に姿を変えているけど」


 花の女神という点では、黒百合の女神と同じだが、こちらは、斧まで持っている。

 宝石のようにぎらついた大きな瞳が、アゼナを非難している。


「友達なのよ。私はベリロスにいつも守られていた」


 神を友と呼ぶ人が、自分以外に、しかもこんな身近にいたとは思わなかった。

 友達というわりには、ベリロスは、アゼナとの会話を楽しんでいないように見える。


「トレニアが溺れて死んだ時、葉一枚分の生命力を分けてもらったの。女神にとって葉一枚でも、人間にとっては十分過ぎる力がある」


 なるほど、トレニアは尋常じゃない魔力の持ち主だった。

 村の同世代の誰よりも、あらゆる魔法を操り、村の誰より知識があった。


 女神の娘だったのか。

 3歳の時から、彼女はすでに別人だったのか。


 誰よりも賢くて優しい友は、ひとではなかった。


「お願いよ、ベリロス、娘を助けて」

「……お前の娘ではない。私の力に過ぎない。一度助けてやった命を守り切れないお前を二度助ける必要はあるまい」

「そんな……。トレニアは私の娘よ、好きで死んだわけじゃない」

「生き物はいつか死ぬ。自分の望まぬ形でな。自然の理を、何度も無視するわけにはいかない。お前の娘だけが何度も蘇るというのは、不公平ではないか。他の者はどう思う」

「他人なんて関係ないわ。トレニアさえ生きていればそれでいい。葉一枚というのであれば、その力をわけてくれればいいじゃない」

「自分だけ特別扱いしろという、お前の生き方に、私を付き合わせるのか友よ」

「友達でしょ、ベリロス」


 おばさん、それでは駄目だと、平行線の会話に割って入ろうとした時、瀕死のトレニアのベッドから、シャーロットが声を上げた。


「お母さん、トレニアが!!」

 ベッドに駆け寄ると、トレニアの姿は、小さいすみれの葉のように小さくなっていた。

「……命を返す時間よ」

「待って、ベリロス!! リリー、あなたからも頼んで!!」

「……えっ」


 自然の理を曲げる、そんなことを頼んでいいものかどうか。

 しかし目の前で死にかけている親友を見捨てることはできない。 


「まっ、待って、ベリロス、おばさんの勝手だというのは、よくわかるわ。でも、トレニアは、命をわけてもらったトレニアは、私の唯一の友達なの」

「それがどうした」

「わたしからのお願いよ、勝手なのは重々承知だけど、もうちょっとだけ、傷を治すだけでいいから、トレニアを助けて」

「そんな義理はない」

「もちろんただでとは言わないわ、代わりに私がなにかするから。私にできることなら」


 妖精を相手に、何をするっていうのか。我ながら無謀だったとは思うが、それしか思いつかない。

 

「私、女神の友達がいるのよ! 黒百合の女神なの」

「……お前が? そういえば、妹は人と関わるのが好きだったな……」


 妹?

 まさか姉妹なのか。

 そういわれてみれば、長い髪と石の表面のような白い肌、確かに外見は似ている。

 サイズがおかしいが。


「信用できないなら、今つれて来るわ」







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