表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/155

第39話 襲撃

村が襲撃されました。


 


「クラウスは三兄弟の一番下なんだけど、隣国へ婿に出されるって噂があってね。まあ街の噂なんてあてにならないとは思いつつ、手を打たないとねって思って」


 婿に出されては困るのよと、リリーは今でも怒っているように膝を叩いた。


「で、惚れ薬作った」

「小細工に走ったわけですね」

「私の惚れ薬は効くのよ。小細工には違いないけどね」


 自覚はあったのか。

 惚れ薬ってそんな誰でも作れるものなのか?


「まあ、効果を確かにするために、複数回飲ませたよね」

「確信犯じゃないですか」

「実際、誰にもバレずにお付き合いは続いたのよ」

 

 ある日、舞踏会に隣国の姫が招かれているのを聞いたとリリーは続けた。


「まあ怒ったよね」

「怒ったんだ? 隣国の姫って、リリー・スワンですよね」

「ええ。おかしいじゃない、スワンは、お姫様じゃなくて女王だし。なんで、隣の小国の王子に手を出す必要があるのかって話で。

で、問い詰めたら、結婚は断ったっていうじゃない。向こうにも、実は想い人がいて、最初から結婚する気はなかったと、クラウスはいうわけ」


 私の妻は君だけだと、首に腕を絡めて囁かれたら、誰だって許したくなる。

 信じなかったわけではない。

 ただ、腹が立ってその日はパーティーの御馳走を食べる気にもならず村へ帰った。 


「後悔しているの、あの夜、ハムを食べに残っていれば……」

「えっ、そこ……?」

「間違えた、彼の部屋に泊まっていれば」

 意地を張らずに、二人でご飯でも食べていれば。

 リリーは歯を食いしばって、苛立ちを吐き出した。


「その夜、王城と私の村が襲撃されたの」


 村に帰って、トレニアの家でお喋りをした帰り道だった。

 いつもの何も変わらない、虫の声が響く田舎道を歩いていると、輝く白い石像が、空を飛んでいるのが見えた。

 そしてラウネル城の方角の空が赤く染まっていた。


「慌てて城に向かったけど、遅かった。城下町は、大混乱で、兵士たちの叫び声が聞こえていたわ」

「……クラウス王子は」

「それから行方不明よ。攫われたということはわかったけど、その輝く白い石像……、ダイアモンドナイトは、私たちの村を襲った」

「どうして」

「シャルルロアへの帰り道だったから、森を焼いたんでしょうね」


 空を飛んで村へ戻ると、数体のダイアモンドナイトが暴れていた。


「私の祖母と、トレニアが応戦していたけど、戦えない村人を逃がすのが精一杯で……」


 トレニアは植物を魔法で操り、ダイアモンドナイトの動きを封じていた。

 三人で戦っても、強力な魔力で動くダイアモンドナイトはなかなか倒せなかった。

「トレニアは私を庇って死んでしまった」

「……死んだ? 寝てるって」

「続きがあるのよ」



 一度休憩にしましょうと、たどり着いた湖のほとりで、僕たちは荷物を降ろした。


 湖の周囲は広く開けていて、ぽっかりと空が丸く見えた。

 薄暗い森を抜けたあとだけに、吹き付ける風が心地よい。


 湖畔で焚き火をして、リリーは釣り竿を用意して、糸を垂れ始めた。

 鳥の声と落葉のざわめきだけが聞こえる。もうすぐ寒くなるわねと、スリットから太腿まるだしのリリーが肩にマフラーを巻いてくれた。


「ダイアモンドナイトは蹴散らしたんだけど、ゴーレムの攻撃から、私をかばってくれてね。その時の衝撃で、一回はトレニアは死んだと思った。その時、飛び去って行くダイアモンドナイトのうちの一匹に、女の子が乗っていたの。片手にクラウスを持ってね」

「女の子……」

「彼女がダイアモンドナイトを操っていたんだろうけど、5、6歳くらいにしか見えなかったから驚いたわ。それに、クラウスを連れ去られてしまった」

「……」

「トレニアは死にかけてるし、追うわけにはいかなかったら。トレニアを彼女の自宅まで運んだのよ。その時には、もう息をしてなくて、駄目だと思った」


 その時、魚がかかったので、竿を引き上げた。

 食事には十分な大きさだ。

 リリーは手早く、魚の腹を裂き、内臓を洗って、拾ってきた木の枝に刺して焼き始めた。


 トレニアは魚釣りも上手だったとリリーは笑った。


「先に釣るのはいつも彼女。彼氏ができたのも、彼女の方が早かった。比べたって仕方ないのに、いつも比べて落ち込んでいたのは私」

「……リリー様」

「昔の私は、他の人ができることができなくって、自信がなくて、いつも退屈だったわ。トレニアだけが、そんな私と仲良くしてくれた」


 親友がいるだけいいじゃないか。

 そんな存在がいるだけ、リリーは僕より幸せなんだろう。

 誰もが振り返る美貌と、女神の力が使える魔法使い。

 王子を取り戻せば、次は王妃様になる。


 過去の彼女と、僕は似ていたかもしれない。

 でも今は、似ていない。


 腸の血に誘われて、すぐに2匹目がかかった。

 引き上げて、リリーの白い指が糸を引き寄せた。


「アキラ、内臓とってごらん」


 言われるまま、ナイフを腹に差し込むが、よくわからない。

 刃先をまず刺して、こうゆっくり、と説明してくれるが、そもそもどこに刺すのがわからない。

 結局リリーが、刃先でゆっくりと内臓をかき出し、指でそっと引き抜いた。

 湖の水で軽く洗い流して、同じように木の刺して焼きはじめる。


「こんなに小さくても生きてるのよね」

 と先に焼いた魚を僕に渡しながら、村の友達が人間じゃなかったって知ったらどう思うと聞いた。

「……なんだったんですか?」

「トレニア、実は人間じゃなかったんだよね」と呟いた。


 ……ほほう。

「実は、僕もこの世界の人間じゃないんですよね。僕の国は、人間以外の……神とか妖怪とか鬼なんかもたくさん住んでますので、そんなに驚きませんよ」

「マジか」

「最近は刀の付喪神が人気があります」


 焼き魚にかぶりつきながら、僕たちは焚き火に木をくべた。

「で、お友達は……。トレニアさんは、何者なんですか」

「なんか、花の妖精だった」

「まさかのフラワー」

「トレニアのお母さん……、アゼナさんっていうんだけど。トレニアを運び込んだら、娘は花の妖精の命をわけてもらってるとか言い出してね」

「妖精さん」

「そう。村が大変なことになったから、どうかしちゃったのかなと思ったんだけど、裏から小さい鉢植えを持ってきたの」






 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ