表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第一章 日向森アキラと真夜中の美女
4/155

第4話 擲果満車

『てきかまんしゃ』と読みます。大変な美少年のたとえ。

 まあ座って、と焼き菓子と紅茶を出される。

「突然知らない街に来て、さぞ驚いたでしょう。本当にごめんなさいね」

「……はい。それで、僕に何を手伝えと」

 カップを置いて、彼女はドレスを指さした。


「見ての通り、私は仕立屋をしているわ。最終的には、シャルルロアの王宮の女たちにドレスを売りたいと思っているの」

 そりゃ町民より、貴族や王族に売った方がいいだろうから、当然だろう。


「縫うのはいいんだけど、顧客の要望をすり合わせるまでが苦手で。絵が描けないから。顧客の家に出向く時だけ、一緒についてきて、デザインを手伝ってもらえないかしら」

「そんなことでよければ」


 王宮に出入りできるようになったら、命を助ける条件はクリアなんだろうか。

 なんとか、なりそうだ。

 僕はいつまで、この家にいたらいいんだろうか。

「わかりました。お手伝いします」

「良かった」

 ほっとした様子で、彼女はもぐもぐとパイを食べ始めた。

 よく見ると、胸はあるけど、首や手足は細くて長い。

 偏食なのかな。


「リリーさん、店の主人ということであれば、上下関係をはっきりさせないと」

「そうね。お給金の話かしら?」

「そうではなくて、主人ならそれなりの態度で接してもらわなくては困ります」

「どうして?」

「どうしてって」

「友達になってって言ったじゃない?」


 首をかしげる彼女を見ていると、とても年上とは思えない。

 綺麗にメイクをしているが、動きがおっとりしていて、子供っぽく見える瞬間がある。

 友達と言われても、毎日、あの乳とベッドに一緒では、僕の身が持たない。


「この店では、僕は新人で、下っ端です」

「そうね」

「一緒に寝るなんてダメですよ。僕も男です。あと14歳です」

「……なんですって!?」

 予想通りの反応だ。

「何歳だと思ってたんですか」

「11~12歳くらいかと。だから自分で絵が得意って言えるってすごいなって」

 ものすごく優しくされてるなとは思っていたけど、小学生扱いされていたとは。毎日あの胸にうずもれて寝れるなら、幸せは幸せだけど。言わなきゃよかったかな。


「私と3つしか違わないのね。本当に?」

「本当です、ウソついてなんになります」

「下着見えてた?」

「バッチリでした」

「……それなら、一緒に寝るのはよくないわね。部屋は増築してあげるわ」

「ぞ、増築!?」


 ちょっと待ってて、と彼女は部屋を出た。

 ドンと鈍い音が何度かして「こっちへいらっしゃい」と呼ばれた。

 

 2階は、彼女の部屋とシャーロットの部屋だけだったはずだが、間にドアが増えている。


「増やした!」


 なんですが、そのドヤ顔は。


「どうやって!?」

「細かいことは気にしないでいいわ。ベッドも作った」


 ドアを開けると、確かに、ベッドが置いてある。

 ついさっきまで、この部屋はシャーロットの部屋だったはずだ。

 眠たくなったらベッドなんて、昔の曲の歌詞のよう。

「他になにか欲しいものは」

「書き物をするので、机と、紙とペンがあれば」

「解った。作っておくね」

 ……作るのか。

 どのレベルから? 木から?


「で、アキラはどうしたいの」

「どうって。そうだ、えと……呼び方なんですけど」

「リリーでいいけど」

「そういうと思いました。でもそれじゃあ、お店の主人に対して失礼です。リリー……さま」

「様!? あたしに!?」

 心底驚いた顔をし、彼女が笑い出した。ヘンかな。

「いやっ……悪くないわね」

 あっ、気に入ってる。


「リリー様とお呼びします」

「……良いわね。じゃあそれで。うん。いいね」


 様付けって良いわねと、彼女がにこにこしているので、よほど気に入ったんだろう。

 新しい服が必要ね、とリリーは、布地を何枚が持ってきて、僕の体に当てた。

「これでいいか。ベストは黒でいい?」

「はい」

 ちょっと待ってて、と彼女は再び部屋を出た。

 3分もしないうちに、「縫ったよ」と白シャツと黒いベスト、黒のひざ丈の半ズボンを持ってきた。


「……縫えないでしょ!!」

「厳密にはね。着てみて」


 なんで半ズボンなんだろうと思いつつ、着替える。

 驚くほどにピッタリだ。

 どうして……? とても3分で縫えるような代物ではないだろうに。


「似合うじゃない」

「なんで半ズボンなんですか」


 まさかショタコンか。

 こんな美人なのに残念だな。


「上下関係がどうのこうのいうなら、従僕でしょう。要するにフットマン。えーと、召使い」

「……まあそうですけど」

「私と出かける時は、それを着ること。わかった?」

「……」

「返事は」

「はい」


 白いフリルシャツに黒いリボン。ベストと黒の半ズボン。まあいいけど……。

 寒くなるから長ズボンも用意すると彼女が笑った。


「アキラは、綺麗な二重をしているのね。私の知ってる子に似ているわ」

「そうですか? 褒められたことなんて、ないから」

「黒髪も少し、くねってるけど、雰囲気があって素敵よ。前髪と、眉毛少し整えてあげるわね」


 小さいハサミで、眉を整えてくれた。

 髪に、少しだけオイルを塗られ、彼女の白い指が髪を整える。


「できた。鏡見てみて」


 姿見に映る自分に驚いた。

 ……僕のポテンシャルは、こんなに高かったのか。


 くせ毛で良かったと思ったことは一度もなかったのに、鏡に映る僕は、愁いを帯びた美少年に見えた。

 これが盛るってやつか。


「似合うわ」


 リリーの白い手が肩に置かれ、鏡越しに視線がぶつかった。


「素敵よアキラ」


 でも、僕より。

 あなたの方がずっと。

 ……そんなこと言えない。


「……ありがとうございます」

 

 鏡の中の彼女が微笑んだ。

 時間が止まったかのような静けさが、僕の手をリリーの手に重ねさせた。

 その時、呼び鈴がリンとなったので、僕たちはバッと廊下に出た。

「リリー、いるー? 起きてるー?」

 誰だろう?  

ここまで読んでいただきありがとうございます!

2025/06/15改定

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ふぁあああ\(//∇//)\テレテレ 14歳だなんて、絶対に自分なら、バラさない!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾力説 失恋、事故死、からの異世界転移、からの豊かな胸( ´∀`)フヘ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ