第36話 ラウネルへ
箒に二人乗りして、アルベルタの屋敷に向かう。
彼女の部屋の窓に、小石をぶつけた。僕たちに気づいたアルベルタは、こっそり外まで出てきて、「行ってしまうの」と俯いた。
「私がこの国を滅ぼすわ。死にたくなければ国を出ることね」
「……リリー、行かないで」
リリーの肩にすがって、アルベルタは行くなと繰り返している。
「アルベルタ、今まで仲良くしてくれてありがとう。嬉しかった」
「あなたがどんな仕事を請け負っていても構わない。私とあなたと友達よ」
「もう友達と呼ばないで。私は……」
その時、屋敷からもう一人、小走りで駆け寄ってきた小さな影があった。
「りんごぐらいしか切れない、へなちょこリリー。私には友達になってって言ってるようにしか聞こえなくってよ」
「ゾーラ……」
「必ず帰ってきて。魔女でもかまわないの。私たちは友達よ、そうでしょ」
ゾーラにぎゅっと抱きしめられて、リリーも俯いた。きっと涙を我慢しているのだろう。
どうしても、冷酷な暗殺者にはなれそうもない、僕の主人。
セティスを絞め殺そうと命令していた魔女と、本当に同一人物なのかと疑いたくなる。
そうだ。まるで別人のようだった、城の舞踏会でのアルベルタの様子を思い出した。
「アルベルタさん、聞いていいですか」
「あら、なあに?」
「妹さんが、フレデクリさんを狙ってたこと、知ってました?」
「知らなかったわ。でも同じことよ」
「……」
「女同士の世界はね。男が絡んだら全員敵なのよ。私が婚約すると聞いて、妹は出て行ったけど、まさか死のうとするなんて。別に戻らなくても良かったのだけど」
「……冷たいんですね」
「勝たなきゃいけない日もあるの。誰にどう思われようが関係ないわ」
恋って、そこまで冷徹になれないと幸せになれないものなんですか。
それなら、僕のこの想いは、恋ではないんだろうか。
「恋ってもっと、キラキラしたもんだと思ってました」
「アキラ。私も、そう思っていた頃があったわ」とリリーが僕の肩を抱いた。
もう行かなくては、リリーはアルベルタとゾーラの頬にキスをした。
「アキラ、リリーをお願いね」
「はい。僕がきっと守ります」
もし、この国を滅ぼさなければならない理由があるのなら、その原因を突き止めて解決できれば……。
リリーは誰も殺さなくて済むんじゃないか?
「……さよなら」
「リリー、こういう時は、またねっていうのよ。あなたほんとに友達いないのね」
すかさずアルベルタが訂正する。
消え入りそうに「またね」とリリーが答え、僕たちは、夜空へ飛び立った。
アルベルタとゾーラの姿が小さくなって見えなくなるまで、僕は手を振った。
「さあラウネルへ向かうわよ」
1部はここまでです。次はラウネル編が始まります。
リリーとアキラの旅はこれから始まります。
のろのろ更新ですが、応援よろしくお願い致します。




