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【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第一章 日向森アキラと真夜中の美女
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第3話 周章狼狽

 リリーとシャーロットと名乗る二人に連れられ、彼女たちの家に案内された。

 池袋は夏だったが、この世界はどうやら秋のようだ。街路樹が色づいているし、夜の空気がひんやりとしている。

 制服の半袖のシャツだと、冷えてしまいそうだ。


 彼女の家は、二階建てのレンガ造りだった。

 窓から、ドレスが飾られているのが見える。看板には、仕立屋とだけ書かれている。

 見たこともない言葉なのに、何故か読むことができた。彼女たちの言葉も聞いて理解することができる。

 服を作っていると言っていたので、確かに仕立屋なのだろう。

 しかし、仕立屋が、真夜中に、人間の子供を召喚なんてできるものだろうか。

 なんか魔女っぽくないか。

 僕は、元の世界へ、池袋に帰れるのだろうか。そもそも、あの世界で、生きているのだろうか。

 一人残してきた母が心配だ。いまあれこれ考えても仕方ないけれど。

 きっと母さんは心配しているだろう。

「入って」

「お邪魔します」

「今日からあなたの家でもあるんだから、遠慮しないで」

 1階は、ドレスが飾ってあり、テーブルが壁際に置かれている。

「明日ベッドとか用意するから。井戸はこっち」

 裏口を出て、井戸を案内された。顔を洗ってねと言われて、従う。


 2階へ案内される。

「とりあえず、今日は一緒に寝ましょう」

「……えっ!?」

「半袖じゃ寒いでしょう。服も明日作ってあげるから。えーと、毛布毛布。……シャーロット! 用意して」

「へいへい、すぐに」


 シャーロットが隣の部屋から毛布を持ってきた。

 猫の毛がついてるな。

 しかし猫がいる様子はない。

 

「じゃあ、おやすみリリー」

「おやすみ、シャーロット」


 彼女が暖かそうな、地味な茶色のワンピースに着替えている。

 下着が見えていたので、背中を向けた。

 言われたとおりにベッドに入る。


 ……いいのか!? 

 シングルベッドだぞコレ。卒業できるの。

 大人の階段上っちゃうのか!?

「り、リリーさん、一緒に寝るって」

「半袖じゃ寒いでしょ? こんな寒空の下に投げ出されて可哀想に」

 呼び出したのはアナタみたいですけどね。

 するりとベッドに入ってきた、地味な服に着替えても、彼女の胸が揺れている。

 しかし、初対面の男をベッドに連れ込むとか、どういうことだ。

 なんてえっちなんだ。こんな可愛い顔してビッチってやつか。


 甘い香りがする。

 毛布に包まれる。

 ぽんぽんと頭を撫でてくれている。


 え、待って、子供扱い、されてるよね。


「寒かったでしょう。ごめんね狭くて」

「……いや、あの……。むねが、その」

「胸が苦しいの? 大変」

「あのあのっ、そうではなくって、ですから」


 一枚の毛布に包まれて、彼女の腕がぎゅっと、僕を引き寄せた。

「……」

 抱きしめられている……。

「知らない街に放り出されたんだもの。つらいわよね。今日は、寝なさい」

「……はい」

「おやすみアキラ」

「……おやすみなさい、リリー」

 

 寝れるか。

 と、思っていたが、彼女が小さな声で何か囁くと、一瞬で瞼が重くなった。



 外で小鳥の鳴き声がする。

 毛布から顔を出し、窓から差し込む朝日に気づく。


 隣に、赤い髪の女の子が寝ている。

 

 ……髪の色が違うんだけど……。

 一体どういうことだ?


 昨日は、ピンク色の髪だったような。

 ……メイク的な何かか? ウィッグ?


 なんでもいい。

 ここは、僕の自宅ではないし、駅前の道路が陥没したことは夢ではなかったらしい。

 いや、この世界こそが、夢なんだろうか。


 母さんはどうしているだろう。泣いていないかな。

 パートから戻って、酒を飲んですぐ寝てしまうから、最近は話もろくにしていなかったけれど。


 疲れた母の姿を思い出したら、腹が鳴った。

 ……朝飯食べたい。

 いつも僕が作っていたけど。 

「リリーさん、起きてください」

「……んー」

「朝です」

「……台所の棚に、なにかあるから……勝手に食べて……」

「リリーさん」

「……ぐぅ」


 朝は苦手なのかな。

 もぞもぞと毛布を引き寄せて、二度寝してしまった彼女を残し、ベッドを出て、一階に降りる。


 台所に棚があり、わずかばかりの食器と、硬そうなパンがあった。

 あとは、じゃがいもとりんごが籠に入れられている。

 色がオレンジの、何か柑橘系の果物がある。

 煮た栗の瓶詰があった。他にも、瓶に詰められた、乾燥したハーブや、野菜を煮たであろうソース的な何か。色が……おかしいぞ……。

 あと、なにかベリー系のジャムがあったので、パンに塗って食べた。

 酸っぱい。腐ってないかコレ。 


 フロアの半分は、店舗になっている。

 一般の町民が着るような、同じデザインのシンプルなワンピースが数着、外からも見えるショーウィンドウには、ゴージャスな紫色のドレスが飾ってある。これはおそろく、貴族が買うのだろう。

 トルソーと、洋裁用のメジャー、小学校の家庭科で買わされたような、小さい裁縫箱。

 店の様子を見ると、彼女は確かに仕立屋なのだろう。

 納得できないが。

 

 シャーロットはどこだろう。

 二人は恋人なのかな。

 

 シャーロットの姿を探す。隣の部屋から出てきたのか、おはようと声をかけられた。

「早いな。まだ朝だぞ」

「おはようございます、もう朝です」

「店は昼からしか開けないからな」

 服屋というのは、そんなものなのかな。


「彼女は起こさなくていいんですか」

「あー、リリーは寝かせておいて大丈夫。お前、腹減ってないか」

「少し。パンしかなかったので」

「市場が近くにあるから、何か買いに行こう」


 店を出て10分ほどで市場に着いた。

 好きなものを買えとコインを渡される。

 ソーセージとチーズが挟んであるパンを買った。料理に関しては、元の世界とさほど変わらないようだ。

 シャーロットは、魚の丸焼きを食べていた。


「オレたち朝飯あんまり食べないから、腹減っただろ。悪かったな」

「大丈夫です」

「お前のパンとベーコンと卵を買っておいたから、明日からは勝手に朝飯食ってくれ」

「わかりました」

「金の心配ならしなくていいし、好きなもの買って大丈夫だ。この辺りはツケもきくし、リリーの名前を出せばいい」

 黒肌にピアスと首輪という外見のわりに、シャーロットはとても気配りができるようだ。親切に礼をいい、市場のはずれで朝食にする。

「アキラっていったか。お前、なんか知らない街から来たみたいだけど」

「ええ。事故にあって死にかけた時に、知らない女の人の声が聞こえたんです」

 そういえば、あの声は一体、誰なんだろう。

「助けてくれって頼んだら……、道に投げ出されて、リリーさんとあなたがいました」

「なるほど。何歳だ」

「14です」

「14!? もっと下かと思った」

 ……なるほど。

 どおりで子供扱いされてると思ったぞ。確かに身長は低いし、地味なくせ毛だし。

 

「まー、いいや。家族は」

「母がいます、父や兄弟はいません」

「ふーん。母親が心配してるだろうな」

「ええ。ところでシャーロットさんは、リリーさんの恋人なんですか」

「えっ、違う違う。リリーはオレの彼女の友達だ」


 どういうことだ。

「オレの彼女が病気になってしまってな。ふるさとの村にいる」

「……」

「助けるってリリーが言ってくれてな」

 そんな事情が。


「オレたちはこの街の人間じゃない、隣国から出てきたんだ。ラウネルってところでな。森しかない」

「そうなんですね……」

「お前の地元は」

「僕の地元は、大きな街で、人がすごく多いんです。学校の夏休みに入ったところだったんです」

「学生か。ナツヤスミってなんだ」

「僕の国は夏が長いんです。とても蒸し暑いので学校が長い休みになるんです」

「へー、いいな」

 今年の夏休みは宿題をしなくてもいい。

 命を助けるかわりに、リリーを手伝えと、謎の声に言われた。


 僕はこの世界で何をしたらいい。

 どうしたらいい?

「そろそろ帰るか。リリーも起きてるだろう。そうだ、これ渡しておく」

 小さな袋に入った耳栓を渡された。

 なぜ、耳栓。

 時間になれば使うから持っておけと言われて、とりあえず帰ることにした。




「おかえり」


 リリーはもう目を覚ましていて、ショップのオーナーらしく着替えていた。

 胸元を強調した黒いワンピース、ウエストはベルトできゅっと絞られている。

 紫色の石のペンダントと、指輪をしている。


 昨日はあの胸にうずもれて、寝たんだよなあ……。

 柔らかい感触を思い出してしまい、赤面する。


「今日は、髪、ピンクなんですね」

「ああ、もとは赤髪なんだけどね。君の世界だって、お化粧ぐらい女はするでしょ」

「ええ」

 やっぱりメイクなのか。でも髪の色も変えられるのか。すごいな。

「さて。大事な話をしましょうか」

 

 

 え?


 

2025/06/15改定

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