表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/155

第25話 異世界でとんこつラーメンを食べながら奴隷市場を潰した話を聞かされるランチタイム

エルフとオークは食用の世界。

異世界でとんこつラーメンを食べながら奴隷市場を潰した話を聞かされるランチタイム


 リリーが多忙のため、今日は一日店を閉めている。

 僕は手伝えることもなく、アッキーの道場へ稽古に出向いた。

 ストレッチと体力づくりの棒振りをこなす。

 3時間の稽古を終えて、お昼になると、「ラーメン食べたくないか」とアッキーが言った。


 この世界にラーメンがあるのか。

 正直、インスタントラーメンでいいから食べたいと思っていたところだ。この国の麺類はパスタに近いものがあるが、少しぽそぽそしていて、それほど美味しくないのだ。

 洋食(?)ばかりだと、どうしても飽きてしまう。


「ラーメンによく似た麺を出してる店があって、頼み込んで麺を作ってもらったんだ」

 小麦粉はあるもんな。でも小麦粉と塩だけだと、ラーメンにならないよね。

「トロナ湖ってところがあってな。そこでトロナ石っていう重曹のもとみたいな石が採れるんだそうだ。スープは豚で取ってるから、とんこつっぽい味だけどいいか」

「かまいません。日本のご飯が恋しかったところです」


 アッキーの知り合いの料理屋で、ラーメンをごちそうになった。味は塩ととんこつだ。

 立ち上る湯気、とんこつの芳醇な香り。

 確かにこれはラーメンだ……!!


 チャーシューぽい味付けを再現した豚肉が載っている。

「……おいしいです~!!」

「そりゃよかった」

 微妙に味は違うけど、限りなくとんこつラーメンだ。

 紅ショウガがないけど仕方ない。アッキーのリクエストで作ってもらった餃子のようなものも二人で分け合う。


 そういえば、この世界で一番うまいものはなんだろう。

 なにか、きっと向こうにはない食材もあるに違いない。


「食べたことはないが、黒エルフと黒オークだそうだ」


 なんだと……!

 ラーメン、吹き出しそうになったんですけど!!


「え、エルフって食べられるんですか……」

 黒オークって。そんな美味しい黒豚みたいに言われても。まさかこのチャーシュー、オークじゃないだろうな。

「この世界では、食用らしいぜ。なんでも絶滅危惧種で、高額で取引されるらしくて庶民の口には入らない」

 普通の市場ではなく、奴隷市場でやりとりされる。

 もちろん、食用になる前は、別の用途でも使用されるためらしい。


「生きてる黒エルフを見たことがあるが、すごい美人だった。ただ、体格が、人間よりいいんだ。女でも身長が2、3メートルはある。もともとは人間たちとも共存していたらしいんだが、徐々に滅ぼされていったらしい」

「よくゲームなんかだと、エルフは魔法が使えて、別の村とか国を作ってるイメージですけど」

「この世界でもそうだぜ。なんで人間たちに狩られるようになったか詳しくは知らない」

「そうなんですか。この街には奴隷市場があるんですか」

「一回潰したんだけどな。また最近は復活してる」


 話したっけ、とアッキーがラーメンの丼をテーブルの端に寄せた。


「リリーが潰したんだ」

「えー……。聞いてません」

 2年くらい前かなあと、アッキーは水を頼んで話し始めた。


 剣術を習いたいと言ってきたガリガリのリリーが、夜中に訪ねてきた。一回断ると、すぐに帰っていった。

 それきり気にしていたかったが、ある日、再会した。

「ある日、シャルルロアの町外れに奴隷市場ができていたな。近くを通りかかった。叫び声がして、リリーが捕まっていてな」

「それで」

「ほっとくわけにもいかないだろう。中に侵入してみると、大勢の女の子たちと、素っ裸で鎖に繋がれて捕まっててな」

 声をかけると、向こうも剣術道場の人だと思い出したらしい。

 

「ちょっと! お願いがあるんだけど、そこから服取ってくれない?」


 木で簡単に組まれた簡易的な牢の隙間から、服を手渡す。ポケットからペンダントを取り出して、彼女はなにか呟いた。

「すると、驚いたことに、それがカギの形に変わったんだ」

 手枷の鍵を簡単に外し、リリーは自力で牢を抜け出した。


 静かにするように言い、他の少女たちを逃がすと、

「腹立ったからここの奴隷市場は焼き払っちゃいましょう」

 と顔色ひとつ変えずに、言った。


「あなた、城の兵士に教えてあげてくれる? 奴隷商人どもが寝静るころにこのあたりを見回ってたら、手柄になるわよ」

「……それは構わないが……。また捕まったら、君、殺されるよ」

「その点は大丈夫。助けてくれてありがとう」


 じゃあまたね、とリリーは外へ出て行った。

 

「城の兵士に知り合いがいたから、何人かで見回るように頼んだんだ。オレも心配だから、一緒に見回りをした」


 日付が変わるころ、リリーは残りの奴隷たちを全員逃がしたらしく、パラパラと女の子たちが逃げ出してきた。

 服を取り上げられて素っ裸の少女もいたから保護した。その中の一人が、

「私たちを助けてくれた赤い髪の女の子が戻ってこない」と教えてくれた。探したが見つからなかった。 


 そして夜明け頃、どこからか火矢が飛んできた。

 風に煽られて、あっという間に市場全体が炎に包まれた光景を今でも覚えている。

 奴隷商人たちは大慌てで逃げ出したところを、シャルルロア兵に捕まって、後日処刑された。


 その騒ぎの中で、人ごみに消えて行くリリーの後ろ姿を見かけたが、ついに追いつけなかった。

 数日後、ひょっこりとリリーが道場に現れた。


「聞いてみたら、ラウネルから出てきたばかりだというじゃないか。住むところがなかったから、宿を探していた時に捕まったんだとさ」

「でも、奴隷市場に火を放つなんて」

「なんでも、図書館で本を読んだらしい。この世界には中国人も来てるらしいな。まんま三国志だったから。火計ってやつだ」

「誰かが三国志の本を持ち込んだんですかね」

「だろうなあ。2年前の話だから、今のアキラとそんなにかわらない。顔色ひとつ変えずに、本で読んだだけの火計を実行して、奴隷商人たちを一掃したのには驚いた。そんな風にはとても見えなかったからね」

 今よりずっとガリガリで、こないだ村から出てきましたって感じの女の子だったよと、アッキーは餃子をつまみながら、話してくれた。


 僕の知らない、15歳のリリー。会ってみたかったな。 

 そのへんの村娘だった彼女が、どうして奴隷市場を壊滅できるほどになったのか。

 本を読んだだけで、人はそこまで変われるものだろうか。


「で、借家を探してあげて、それから剣術道場にも入門を許可したんだ。危なっかしいから」


 服屋さんをやると言っていたが、それだけじゃないのはわかった。

 彼女には目的があり、大きな何かが味方についている。


「あの子は、本物の魔女なんだろうな。この国では口にできないだけで」

「……」

「日本だと、忍者っていただろ。自分たちからは忍者だとは絶対に名乗らない。諜報活動が仕事だからだ。彼らは草と呼ばれ、村人に溶け込んで暮らしていたらしい。リリーもきっと、魔法使いだと明かせない事情があるんだろう。彼女の地元じゃ、魔法を使えるのが普通みたいだけど」

「魔法少女みたいなもんですか」

「そうだな。美少女戦士だって、正体を自分からばらしたりしないだろう」

 もともと、この世界の住民ではないアッキーには、国ごとの違いなどは、よくわからないらしかった。

 

「アッキーさん、相談があるんです」

 ついでに、悩み事を打ち明けることにする。僕だけでは判断できない。

「ん? 話してみろよ」

「リリーの友達が……、彼女からの贈り物を紛失してしまったみたいで。ただし、リリーは、別の子が、その贈り物を持っていたと話してるんです。それでいま……怒っていて」

「その友達の言い分がわからないとなんともなあ。無くしたって言ってるんだろう」

「そうなんですけど。リリーが、聞く耳をもってくれるかどうか」

「お前が仕えている相手はリリーだろう。彼女のためになる行動をするべきじゃないか。誤解だというなら、間に入ってやればいい。誤解は時間が経てば経つほど解けにくくなる」


 誤解だっていうなら、だけど。

 ラーメンと餃子を食べ終わって、ついでに唐揚げも頼んだ。

「アキラはもっと食べて、まず体力をつけないとな」

 いっぱい食べて強くなれよと、アッキーはどこまでも親切だ。


 ……強くなりたい。

 多少のことでは動じない強い心と体が欲しい。


 ふと、そのへんの村娘だったリリーが、手に入れた大きな力がわかった気がした。



 ドールハウスに住む、美しい黒百合の女神。

 彼女とリリーの事情はわからない。 


 だが、彼女の力を、僕も借りられないだろうか?








ラーメン食べたい。

とんかつDJ実写化おめでとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ