表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第三章 アキラとシャルルロアの住民たち~そばかすゾーラと人形師セティス and more!
21/155

第21話 一問一答(前編)

21 一問一答



 日が暮れてしまったので、アッキーが店まで送ってくれた。

 店番をしていたシャーロットとゾーラが出迎えた。

「おかえり。リリーなら飯食いに出てる。アッキーじゃん」

「よー、シャーロット。また道場にも来いよ」

 二人と、ダンス教室のエディは友達らしい。近いうちに行くとシャーロットは言い、アッキーも帰っていった。


「なんでいきなり、アッキーと帰ってきたんだ」

「剣術を習うことになりまして」

「なんでまた」

「リリーに、使い物にならないって言われたので、腹が立って」

「……なんだそれ、失礼だな」


 リリーは、昔はそんなこと言う奴じゃなかったんだぜ、と庇いつつ、シャーロットは怒ってくれた。


「……僕、失礼なこと言われてますよね!?」

「ああ。年下だから何言ってもいいわけじゃないだろ。リリーが悪いな、オレから叱っとくよ」


 ゾーラが夕食のサンドイッチと厚切りベーコンを焼いて持ってきてくれた。


「お、おいしい?」

「ああ美味いぜ。ありがとなゾーラ」


 これしか作れないからねと、何故かドヤ顔でゾーラは台所へ戻った。

 年上に憧れるお年頃だ、シャーロットに彼女がいるって知ったら悲しむんじゃないのかな。


「種族が違うってリリーが言ってたんですけど……。長生きできないんですか」

「……なんの種族かは聞いてないのか。そうだな、人間と比べたら、長生きはできないな」

「そんな。どのくらいなんですか、その、……寿命。それに彼女がいるって」

「長くて15年くらいかなあ。オレは彼女には話してあるし、お互いに納得の上で付き合ってる。仕方ないことだから」


 いま何歳なんだろう。

 どうしてここの人たちは、大事なことは何も話してくれないんだ。

 思い切り眉間に皺を寄せてしまったのだろう、シャーロットが僕の髪を撫でた。


「あー、隠してたつもりはないんだ、あんまりお前がここの暮らしにすぐ馴染んだから、なんとなく話してなかったな。ごめんな」

「……いえ、すみません、僕は新入りなのに」

「そーゆーんじゃないって。お前とリリーって、ほんとのきょうだいみたいな感じに思えてきてさ。つい、リリーが知ってることは、お前も知ってるように思ってた。すまなかった」


 きょうだいみたい。

 僕はここでも子供扱いだ。リリーの目的も、何も教えてもらえない。




 僕は必要とされてないのかな。




「彼女は誰を探しているんですか」

「お前ぐらいの男の子だ。それ以上はリリーが言ってないなら言えない」

「……どうしてですかっ」

「オレはリリーの友達だけど、今の主人は彼女だからだ。それに、オレはそいつに会ったことがないから話しようがない」

「僕には何も話してくれないんですね」

「悪いな。文句があるならリリーに言ってくれ」

 代わりと言ったらなんだが、ちょっと待ってろと言い、シャーロットは二階へ上がった。

 すぐに降りてくると、「これやるよ」と革手袋をくれた。


「ひのきの棒振りから始めるだろ。手が痛くなるから、これ使え」

「……いいんですか」

「ああ。稽古して、強くなって見返してやれよ」


 ……シャーロット、お前! 

 こういうところがきっともてる秘密なんだろうな。

 

 そうこうしているうちに、リリーが帰宅した。


「どうだった? 断られたでしょう」

「いいえ。入門させていただくことになりました」

「えっ、まじでー。ふーん」

 良かったじゃんと軽くリリーは言い、着ていたマントを脱いだ。


「おいリリー。こいつにヒドいこと言ったらしいな。ちゃんと謝れよ」

「思ったことを言ったまでよ」

「年下で頼りないからって、傷つけることを言っていいことにはならない。現にアキラは怒ってる。なあ?」

「……はい」

 台所からワインを持ってくると、彼女はコップに無造作に次いで一気にあおった。


「傷つけたことについては謝るわ。ごめんなさい」


 なんて。

 なんて心のこもってない謝罪だろう。


「おいリリー、お前は幽霊にでも妖精にでも精霊にでも礼儀を尽くす奴だったぜ。その態度はないだろう」

「私はこの家の主人よ。守るといった以上、危険から遠ざける義務がある。アキラ、あなたの主人は誰」

「リリー様です。でも、僕の心の主人は、僕です」


 もう一杯、ワインを飲むと、

「……それがわかっているなら、大丈夫よ」

と静かにリリーは笑った。

「ひどいことを言ってごめんなさい」

「リリー様」

「君は人の様子を観察するのに長けていると思ってた。それは、傷つけられてきたから、自分の身を守るためだったのよね」


 僕は、また、丸め込まれてはいないか?


「戦うってことは、それだけでは駄目なの。自分がなくてはいずれ死ぬわ」

「……」

「君はアクセサリーなんかじゃないわ。強くなって私を驚かせて」


 リリーに啖呵を切った以上、結果を出さなくては。

「わかりました。僕は……変わりたい」

「……昔の私も、同じことを言ってたわ。私たち、似てるわね」 


 似ているのかな。

 いつもはお洒落をして、ピンク色の美しい髪の彼女。

 本当は、地味な赤毛なのを知ってる。

 自分のことを田舎娘と話す、魅惑的なお姉さん。僕はあなたに似ていますか? 


「私は。初めて人を刺した時は、とっても怖かったわ」

「……!」


 さあさあ寝なさいと、リリーは手を叩き、全員を部屋に下がらせた。




 ああ疲れた。今日はほんともう、何もしたくない。

 顔を洗って寝よう。部屋へ戻り、服を脱ぎかけてふと、鏡を見ると、女の子がいた。あれ。



「あああああああ!?」



 なんでガーネットに変身してるんだッ!?


 鏡を見ると、銀髪で紫の瞳の僕が映っている。

 何もしてない。第一、前に変転した時は、黒百合の女神に『変身させてもらった』のだ。自分でできるわけではない。

 手に負えない現実、なんなんだ。部屋を飛び出し、黒百合の女神のドアを叩いた。

 私は何もしてないけど、と彼女は不機嫌そうに肩をすくめてみせた。


「どうしちゃったのかしら……。勝手に変身するなんて、いけない子ねえ」


 くすくす笑いながら、彼女が、僕の額に手を触れた。


「リリーや私といるなら、魔力が目覚めたのかしら」

「そんなことあるんですか」

「人間には、もともと魔力が備わっているのよ。使いこなせない人が多いだけで。素質があったかもしれないわ」


 なんのだ。

 早く元に戻してと頼むと、

「……勝手に変身したなら、朝には勝手に元に戻っているわ。寝なさい」

とにべもない。 

 

 着替えてベッドに横になる。不思議なことに、髪も肌も、女の子の姿の方が柔らかい。

 小さめの胸ではあるけど、両手で包むと、やっぱり膨らんでいる。大人の男にいいようにされるのは嫌でたまらなかったが、自分が女になっても、別人のようで馴染まない。

(やっぱり巨乳がいいなあ……リリーみたいな)


 まあいいや。もう寝よう寝よう。

 明日のことは明日の僕に任せよう。



 楽しいことばかりじゃないけど、時に癪に触ることもあるけど、明日はきっといいことが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ