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【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第三章 アキラとシャルルロアの住民たち~そばかすゾーラと人形師セティス and more!
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第19話 アキラの決意

初めての喧嘩。

「剣術道場に通いたい? なめてんのかコラ」

「なめてません。僕は見た目がこんなですから、子供扱いされるのは仕方ありません。でも、自分の身は自分で守れるようになりたいんです」


 夕日を受けて、彼女の影が長く伸びる。血のような夕日を受けて彼女の唇がきらめいた。

 やばい。

 怖くてチビりそうだ。

 

「本当に賢い人は、危険に近づかないようにするものよ」

「好き好んで危険な目に遭いたいわけじゃありません。勝手によってくるのが危険ってものでしょう」

「そうね。それで?」

「僕はナイフひとつ操れませんから、道場があるなら、そこで習いたいんです」

「君に人を殺す覚悟があるのかしら?」


 笑わせるな、リリー・ロック。

 最近感じていた、不満とも不快感ともいえない、強いて言えば違和感だろうか。


「僕は。あなたにも、その覚悟があるとは思えません」

「……なんですって。もういっぺん言ってごらんなさい」


 僕にも言いたいことはある。勇気を出せ。


「リリー様、あなたが、商売なりダンスなり剣術なり、努力と勉強でなんとかしてきたことは、話していたらわかります。図書館でなんでも調べるみたいに言ってますもんね。なにか特殊な力を使えるということも」

「それで」

「危険な仕事を『やらされている』ということも。あなたもシャーロットも、自分のことは慎重に、話さないようにしている。他人の面倒を見て、自分たちの正体を悟られないようにしている」


 友情には友情で、商売には商人のやり方で。

 溢れんばかりの優しさで、そのままの不器用さで、素朴な田舎娘のままで、自分の姿を隠している。


「リリー・ロック、あなたは嘘はついていないかもしれない。でも正体は、硬くて本音を隠してる岩そのものだ」


 相手が望んでいるものを、惜しみなく与えて『優しいリリー』を演出する。


 魔法にかけられたように男受けするドレスを作る、街一番の仕立屋。

 簡単には男と踊らない。

 ミステリアスなようで、そうでもない。店に来ればいつでも会える。しかし、女神を連れて、夜明け前にはパーティーから姿を消す、暁の魔女。


 嘘はついてないかもしれない。


 いつだって僕が欲しいものを、僕が欲しい言葉をくれる。

 しかし、内側には触れられない。彼女の本音は大きな岩に包まれているように強固で、踏み込めない。


「最初は、人との間に壁を作っているだけかと思っていました。薄い壁が何枚もあるみたいで、もっと仲良くなったら、もっと話したらきっと、本音を話してくれるんじゃないかと思っていました」


 実際は違った。僕が甘かった。


「あなたの本音には、本心には触れられない」

「……そうかしら。君は、私の正体を見抜いたように見えるけど?」

「僕から見える姿が、本物とは限らない。あなたは正解だとは、今、言わなかった」

「……それなら、どうする? 君はどういったら納得してくれるのかしら」


 ほら、それだ。

 そうやって「相手の正解」を、彼女は引き出そうとしている。

 不登校の引きこもりだった彼女。ああでもない、こうでもないと考えるのが癖になっているんだろう。それとも、それすら、図書館で読んだ本のテクニックなんだろうか。

 リリーは僕の望みは何か、探ろうとする。


 僕の望みはなんだろうか?

 黒百合の女神の何気ない一言に、僕は気が付いた。



『誰かが助けてくれるとでも思ってる?』



 そうかもしれない。僕は、誰かが助けてくれると心のどこかで信じていたのかもしれない。またリリーが守ってくれると期待していたんだろう。

 じゃあ助けてもらえなかった時に、僕は戦わなくちゃいけない。



 強くなりたい。

 その気持ちに、リリーの納得は必要ない。



「リリー様。あなたが何者でも構わない」

「……」

「先日、自分の魂を大切にしなさいと、あなたは言いましたよね。僕は自分のために強くなりたいんです」

「私は君が傷つくのは見たくない」

「あなたのそういう優しいところは、本物だって、僕ちゃんとわかってます」

 

 全部が全部嘘じゃないだろう。今の彼女が本来の姿じゃなかったとしても、構わない。


「あなたのお役に立ちたいんです。アクセサリーでも構いません、僕をおそばにおいてください」

「だから! その考え方が間違ってるっていってるの!!」

 がっと肩を掴まれる。

「……アキラ。君は、まだわかってないのね」

 と、吐き捨てるように言い、立ち上がると彼女はぷいっと背を向けた。


「でも、わかったわ」

「……」

「いいでしょう。私と来なさい。強くなりたいんでしょう」

「剣術を習ってもいいんですか」

「それがあなたの望みなら。……覚悟があるなら、ね」



 



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