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【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第三章 アキラとシャルルロアの住民たち~そばかすゾーラと人形師セティス and more!
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第18話 シャーロット争奪戦

今回はいろいろキャラが出てます。

18


 夕食を終えて帰宅すると、ちょうどラングリッド夫人が訪ねてきたところだった。ゾーラの好物だというミートパイと着替えを預かる。

 ご迷惑をおかけします、と若い義母はどこまでも腰が低い。

「後日、主人と改めてあいさつに伺います」

「その時に引き取ってくれるんです?」

「私はそのつもりでおります」

「娘がなつかないなら、修道院にでも入れてしまったらどうかしら」


 何言ってるのこの人。


「邪魔な義理の娘を片付けて、遺産目当ての結婚なんでしょ?……って、よく聞かれません?」

 止めようとしたら、ラングリッド夫人が

「私はあの子を追い出そうとしたことは一度もありません」

ときっぱりと言い放った。

「それなら安心ね。早く引き取りにきてくださいね」

 リリーの失礼な態度にも、ラングリッド夫人は声を荒げることなく、どうかあの子をよろしくと頭を下げて帰っていった。


 ゾーラにミートパイが届いたことを伝え、シャーロットが着替えを部屋へ運んだ。

「義理のお母さんが持ってきてくれたぞ。食えよな」 

「あの人が……」

「良かったじゃん」


 シャーロットが、ゾーラの頭をぽんぽんと叩いた。

 僕にはできない。ああいうのが自然にできるってイケメンってずるいな。

「……っ!」

「はやく風邪治せよ」

「……はい」

 風邪がよくなったら仕事を手伝わせることにして、「働かないなら家に送り返すからね」とリリーは言い、僕たちは部屋を出た。

 もともと僕が使っていた部屋をゾーラが使うことになり、僕は1階の、黒百合の女神の家に間借りすることになった。

 女の子になったり小人になったり忙しいな僕。

 

 黒百合の女神はたいてい寝ている。そのため、あまり気を使わなくていいとリリーから言われている。

 今日は起きていた。

 紅茶とクッキーを出すと、「君は誰かのお世話をする星のもとに生まれてるのねえ」と、女神は笑った。

「好きでしてることですから」

「それで自分が可哀想でないなら止めないわ」

 

 僕は、まわりから可哀想だと思われているのか?


「僕は自分が、可哀想だとおもったことはありませんけど」

「それならいいのよ。まっ、別にどうでも」

「……」

「君はいつもすぐ黙るわね」

「……」

「誰かが助けてくれるとでも思ってる?」

「そういうわけでは」

「別に一日中働かなくても、リリーの仕事の手伝いがない時は遊びに出てもいいのよ」


 そういうことか。

 そんな、社畜みたいな思われていたのかな。

 働いているといっても、毎日死ぬほど忙しいわけではなく、仕事が片付かないのはたまにだ。


 リリーが起きだすのはいつも昼前だし、店は午後だけの営業で、夜が更けてからは、パーティーに出かけたりして、実際に顧客を回ったりするのはわずかな時間だ。

荷物や手紙を届けるだけならシャーロットもしているし、リリーは簡単な食事で済ますので食事作りが大変ということもない。大変なのは買い出しぐらいで。

 店舗や玄関まわりの掃除は、毎日しているが、それはこれからゾーラがやってくれるだろう。あとは洗濯か。

 洗濯機欲しいな。

 ……結構働いてるな。メイドさんがいればなあとは思ってたけど。


「そうですね、リリー様に聞いてみます」

 店へ戻ると、リリーはドレスの仕上げをしていた。

 レースをちまちまと縫い付けて、僕のイラストが元とは思えないほどの輝きを放っている。


 ゾーラはなにをさせるのかと、リリーが問いかけてきた。

「ノベルティ作ってもらいましょう。あと、店舗と玄関まわりの掃除を。このくらいならできるでしょう」

「それでいいわ。仕事しないのに家に置くわけにいかないし。あとでこのメイド服を持っていってあげて」

「縫ってくれたんですか」

「メイドが欲しいと言っていたでしょう。お給金は私が払ってあげるから」

「……ありがとうございます!」

「そのかわり、ゾーラにちゃんと仕事を教えてよ。それは君の責任よ。わかった?」

「はい。あと……。あの、出かけてきてもいいですか」

「いいわよ。夕方までに戻ればいいわ。夕方以降は、決して一人で出かけちゃダメよ」

「どうしてですか」

「……子供は、奴隷商人に捕まるからよ。この街は商売が盛んだから」


 人身売買も商売のうちなのか。


「アキラ、あんまり自覚がないみたいだから教えておくけど、君みたいな子は需要があるのよ。いろいろと。もう解る年頃よね」

「僕は可愛くありませんから」

「そんなことないわ。この街だと黒髪は珍しいし、大人しそうな子は奴隷として高く売れるの。連れて歩けばアクセサリー代わりになるし、手土産としても便利だから」

「……手土産」

「男の子は妊娠しないから便利なのよ。私もうっかり捕まったことがあるけど、ほんと、夜は一人で出歩いたら駄目よ」

 需要があるってことは理解してと、顔色ひとつ変えずに、奴隷の話をする。きっと彼女のふるさとでは、奴隷商人に誘拐されたりとか、そんなことはなかったんだろうな。

 夜に一人で歩くのはどこの世界でも危険だ。こんな美しい街でも。気をつけると約束する。

 君とは約束ばかりしてるわねと、彼女は笑った。

「破ったら針を飲まされるんでしょ」

「ええ。指切りってそういうものですから」

「忘れてないわ。ねえアキラ。針を千本も飲んだら死んじゃうと思うけど」

「その時は僕も飲みますから」

「急に重いこと言うのね。まあいいわ。あしたからダンスを習ってもらうから、早く休みなさい」



-----


 翌朝。

 いつもは各々が勝手に食事するが、リリーが朝食に全員を集めた。

 ゾーラを正面に座らせる。

「これからの話なんだけど。うちで雇ってあげてもいいわ。そのかわり家事はしてもらうわよ。あとね、舞踏会に出てみる気はない?」

「舞踏会……?」

「シャルルロア城の舞踏会よ。素敵な結婚相手を探して実家を出たらいいのよ。母親が嫌いなんでしょう」

「……」

「どうかしら。君はラングリッド家の本物のお嬢様なんだし」

「……シャーロットと一緒なら、出てもいいわ」

「うん? 別にいいけど」


 舞踏会のためにドレスを用意すると約束をした。

 家事はぼちぼち教えるとして、僕とシャーロット、そしてゾーラの三人でダンス教室へ向かった。

 ダンス教室の講師が「リリーのところの子だね。いつも彼女にはドレスを用意してもらって助かっているよ」と挨拶される。


「オレはエディ・アルダン。素人でも3日で仕上げるよ!」


 すっと手を取られて手の甲にキスをされる。「アキラです」と名乗るのが精いっぱいだった。テンション高いなー……。

「アキラか。よろしくね! シャーロット、今日も素敵だね、今夜ご飯どう」

 エディは男女関係ないようだ。

「オレ彼女いるから無理」

「つれないなあ」

「アキラ、お前も。踊れるようにならねーと」

 ダンスは町のお祭りでも、貴族のパーティーでも、誰でも踊れるのが普通らしい。

 そういった場で相手を探し、結ばれるというのがこの世界の男女の在り方のようだ。

 貧しい村娘でも、人の伝手で自分より身分の違う相手と出会うこともできる。それにはまず、人目を引くようなダンスの技術が求められる。

 壁の花では、誰の目を奪うことはできない。


 レッスン場はほかにもたくさん生徒がいて、おのおのぎこちなく踊っている。

 エディが、「シャーロットがいるならいいよね」と行ってしまった。他の生徒たちのステップや姿勢を細かく指導している。 

「簡単なステップからやるぞ。ゾーラは次な」

 シャーロットに教えてもらい、リードしてもらう。

 すごい、自分じゃなにもしてないのに、合わせてるだけで踊れる……。


「シャルルロア城で踊るんだから、基本だけでも押さえとけよ」

「リリー様も……、僕と踊ってくれるでしょうか」

「誘えば踊ってくれるだろ。じゃあリードできるようにならねーとな」

 初日ということで、少し踊っただけでゾーラと交代する。彼女は、経験者なのか、シャーロットと華麗にワルツを踊っている。

 しばらく休んでいたら、エディが水を持ってきてくれた。


「アキラっていったっけ、君は、今日が初めてだよね? リリーの店のバイトかい」

「そうです」

「彼女忙しいからね。店しながらダンス通って剣術道場通って、ほんとたいしたもんだよ」

「剣術道場?」

「ああ。友達なんだ」

「剣術道場に通ってるのは知りませんでした」

「そうなんだー。忙しいのかもね。最初、うちの教室に来たころは、店も持ってなかったんだけど」

 レッスンに通っていたが、ある日、ダンス教室の生徒たちに服を売り始めた。

 最初は日に1枚2枚程度しか売れなかったが、ある日、ワンピースを買った生徒が、『リリーの服を着てるともてる』

と言い始めた。それから、リリーがレッスンに来るたびに、ドレスも売れ、口コミが広がった。

 半年も経つと、リリーのドレスを目当てに、教室の顧客は3倍に膨れ上がった。


「もちろん、ダンスのレッスンを受けているから、みんなスタイルが良くなるのもあるし、踊れるようになるから自信がつくのよって、リリーはうちの教室の評判を高めてくれたんだ」

「ここで服売ってたんですか」

「ああ。レッスンが終わった後にね。このシャルルロアで、15歳くらいの娘っ子が、1年足らずで店を出した。あの子は商売が上手だよ。ちょっと異常なくらいにね」

 

 リリーは隣国の田舎から出てきたと話していた。15かそこらの女の子一人で店を立ち上げたのか。


「あの子のドレスは、着てると急にもてるようになるって評判だ。まるで、魔法でもかかってるみたいに」


 エディもまた、『魔法』を感じている。

 リリーは魔法使いというのを隠しているんだろうか。

 

 この国には、魔法使いや魔女の類は、いないのだろうか?


「リリーは賢いよ、服があんまり売れなくなったころに、シャーロットを連れてきてな。彼、かっこいいよねえー」

「……え、ええ」

 ガチの人かな。

「この国だと珍しい黒髪で、エキゾチックな雰囲気というか……。しなやかに踊るんだよなあ……。美形の店員に服売らせるとか、リリーは賢いよ」

 シャーロットはもてるんだな。優しいし。背が高いし。

「彼がうちの教室に通うようになって、女性の生徒さんがどーんと増えてね。うちは大助かりさ」

「そうですか……。確かに」


 シャーロットと踊るゾーラは楽しそうだ。

 ゾーラが休憩している間も、すぐに別の女性に声をかけられていた。

 ダンス教室の講師も褒めるほど、シャーロットは上手らしい。

「あのゾーラって子、わかりやすいね。ふふっ」

「……そうか」

 そうだったのか。




-------


 レッスン後、リリーが迎えに来た。シャーロットとゾーラを先に帰らせて市場に立ち寄る。りんごを買ってもらい、今日のレッスンの様子を伝えた。

「ゾーラに素敵な彼氏ができるといいわね」

「リリー様……」

 どうしてわからないんだ。しゃがんでもらい耳打ちする。

「……ゾーラは、シャーロットが好きなんですよ」

「な、なんですって」

「どうしてあの子が、いつもうちの店を見ていたかわかりました。家庭の事情ももちろんあるんでしょうが」

「……それは困ったわ。シャーロット、彼女いるのよ。それに、長くは生きられない」

「え……」

 その話は聞いてない。

「種族の違いだから、私たちにはどうしようもない」

「話してあげた方がいいんじゃないですか」

「どうして」

「どうしてって」

「ねえ、なんか勘違いしてない?」

 長いピンク色の髪が風に揺れる。

「君は私に優しいお姉さんの役を期待してるみたいだけど、誰にでも優しくしてやる義理はないのよ」

「じゃあ、シャルルロアの城に入り込むだけに、ゾーラを使うんですか」

「ええ。子供を利用するのが悪いというなら、私に使われている君はどうなるの」

「……」

「交換条件で、ゾーラを家においてあげてるのよ。無条件で家出娘を置いてあげる義理はない。君はどうしたら納得するの」


 どうしたら。確かに。

 

「シャーロットには可愛い彼女がいるって話して諦めてもらう? わざわざ傷つけて家に帰すのが、親切かしら。それにその子は私の親友なの」

「……」

「前も話したと思うけど、私たちは、仕事を終えたら、国に帰るのよ。あまり仲良くなったら、可哀想なのはゾーラよ」

「リリー様。人を探してるって聞きました。あなたが探している人は」

「君に話す義理はないわ」

「城にいる確証はあるんですか」

「確率は高いわ。詳しいことは話せないの」

「どうしてですか」


 すっと、彼女の手が風を切った。

 目の前にナイフがある。

 アメジストの指輪が、ナイフに変化している。

 切られた僕の前髪が、風に、流れた。


「君が戦士じゃないからよ。使い物にならないから」

「使い物……」

「巻き込みたくないから、とか優しく言ってあげた方が良かったかしら」


 心臓が、握りつぶされたみたいに、痛んだ。いや、黙るな。この程度で傷つかない。

 頭を使え。


「強くなったら……、話してくれるんですか」

「君になにができるっていうの。絵が描けるのと、女の子に変身するぐらいしかできないじゃない」

「そうですけど」

「シャルルロア城に出入りできるようになるまで、協力してってお願いはしたわ。私はそれ以上のことは望んでいない」


 リリーの態度は、コインの表と裏のように、コロコロと変わる。

 実際、変わっているわけではなくて、温かさも冷たさも、どちらも共存しているんだろう。

 使い物にならないから? そのくらいで泣かない。

 元いた世界では、まわりの大人たちに、いいようにされていた。


 このままでは終われない。

 変わりたい。

 そう思わせてくれたのは、目の前の美しい人。恐ろしい魔女でも構わない。


「リリー様、お願いがあります」






新キャラ・エディはダンス教室の講師。イケメン好き。

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