第146話 二人の暁
アキラの決断。
「クラウスとアキラが戦っています」
「どちらかが死ぬかも」
カインのもとに、ハイラとメキラが報告に来た。
「お前たちが心配しても始まるまい。男同士の対決に口を挟むものではない」
「しかし、クラウスが死ねば、今までのアキラの苦労は」
「リリーが止めないのは何故か考えてみるがよい。どちらでも良いと彼女は思っているのだろう」
トレニアはリリーの部屋を訪ねていた。アキラとクラウスが戦っていると伝える。
「……どちらかが死ぬわよ。両方かも」
「両方死んだら、村に帰るわ。畑で芋を育てて、スープ作って、一人で暮らすわ。元の暮らしに戻るだけの話よ」
「ラウネル王国はどうなるの」
「私もアキラも王族じゃないから。どうもしない」
窓の向こうの闇は、未だ深く。森を吹き抜ける風の音が響く。
「私を迎えに来た方と結婚するわ」
夜明けまでにドレスを縫い上げると、手を動かしている。魔法でいくらでも形を整えられるが、腰や胸周りのレースは自分で仕上げたいのだと言う。
「王妃様になりたいから、アキラに、戦うなとはいえないわ。先に結婚を申し込んできた方と結婚する。アキラもクラウスも、私の夢に巻き込んだ。責任を取る」
「それでいいの」
「他人を利用し続けた私は、魔女よ。自分で望んで、魔女になった」
黒百合の女神のアメジストを使って、夢を叶えるために頑張ってきた。結婚がひとつの目標だった。
「後悔しない?」
「やってみなければ、わからないわ」
「ははっ、確かにそうね」
ひと針ひと針、レースを縫い付けていく。理想や夢を形にできる、それは私の能力と笑う。
「手に入れたいものを手に入れる。願いは誰にも奪えないでしょう」
「……リリー」
「仕上げるわ」
ドレスも指輪もある。夢のカタチがどうなるかは、もうすぐわかる。
幸せのカタチはこれから作っていけば良い。
友の決断に口を挟むことはできない。トレニアは頷いて部屋を出た。
廊下にコツコツとヒールの音が響く。
ガーネットの姿のまま、ドアをノックした。
「リリー様。起きてましたか」
「ドレスの仕上げをしてるの。入っていいいわ」
ろうそくの、か細い明かりの中でも、純白のロングドレスは輝いて見えた。
「……よく、お似合いです」
「なにか言うことがあるんじゃないの」
「さよならを伝えに来ました」
「ふうん」
日本へ帰る。リリーはクラウスと結ばれ、王妃様になる。
ドレスとバラの似合う、お姫様。リリーは、「あなたは本物の魔法使い」だと言った。
好きな人の望みを叶えてあげたい。
「リリー様、あなたに幸せになって欲しい。夢を叶えて」
「それでいいのね」
「はい」
リリーはしゃがんで、僕の髪を撫でた。
魔法が解けるのが解る。
もう、ガーネットの声は聞こえない。
「わかったわ。君の決断を尊重する」
本当はずっといっしょにいたいけれど。
「あなたをプリンセスに」
「……」
あなたの夢が叶うように。
一緒にいたいと初めて思ったひと。魔女でも道具でもいい。あなたの役に立てたなら、それでいい。
「あなたといて、初めて素直になれた」
「私もよアキラ」
森の向こうから朝日が差し込んで、長い影を落とした。
何度目かのキスは、涙の味がした。
黒百合の女神に呼びかけると、ふわりと彼女が現れた。
「お前は私を友と呼んだ。困ったら呼べ。一度くらいなら助けてあげるわ」
「ありがとう、ティラリア。あなたがいつだって助けてくれたことを忘れない」
「私もよ。そのロッドを貸しなさい、小さくしてあげるから」
キーホルダーのように小さくなったロッドを返してもらうと、黒百合の女神は頬にキスをした。
「友よ。またね」
黒い森の向こうから朝日が昇る。
さよなら僕の魔女。
リリーと窓の向こうを見つめる。
「さよならリリー」
真夜中に出会った僕らは、夜明けとともに終わる。
行くわよと黒百合の女神が手をかざすと、風が僕の体を包み込んだ。
「アキラ、どうか幸せに」
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