第138話 愛されたいにも程がある
クラウスの突然のお願いに戸惑うガーネット。
日が落ちた森に降り立つ。
「閉じ込められていた空間が、切り裂かれたのを見ていた。君の姿を見て驚いたよ。姉が帰ってきてくれた、僕を助けに」
「私はあなたの姉じゃない。突然何を言うのよ」
「ガーネット聞いて。同じ人じゃないとはわかってる。でも全くの他人なら、なぜ、ラウネルにたどり着いた。リリーと出会い、いま僕と出会った」
知ったことか。
「元の世界で私は死にかけた。でも死んだわけじゃない。まだ生きてる」
「でも、魂はここにある」
クラウスは伸ばしかけた手を、一度引っ込めた。
「だから、この国に導かれたんだ。別の世界から来た? それだけなら、どうして、同じ顔なんだい」
そっと開いた手を、握りしめる。
その手と僕の顔を交互に見て、クラウスは何かを確かめるように瞬きをした。
「優しかった姉様。君は異世界から来たと聞いた。きっと君は姉様と同じ魂を持っていて、それぞれの世界で生活していた。君が死にかけたときに、こちらに戻ってきたんだろう。そうに違いないよ」
「お姉さんは死んだのでしょう? じゃあ彼女の魂はもう無くなっているはず。同じ存在なわけがない」
僕は日向森アキラだ。今は女の姿をしているけど、本当はラウネルのお姫様だって? 無理がある。
「……顔がたまたま同じだけよ」
「……夜の闇に光が射したようだった。閉じ込められていた僕を助けてくれた、君の姿がどれほどの喜びをくれたか、君にはわからないの」
「知ったことか。王子。私はあなたを弟として扱わない。勝手なことを言うなら許さないわ」
「姉様」
「違うって言ってるでしょう。いい加減にして。川に沈めてあげようか」
そんな説明を誰が信じるというのか。
狙いはなんだ?
「……どうして……。どうして抱きしめてくれない?」
愛されたいにも程がある。リリーほどには、彼を信じていない自分がいる。
第一、突然、お姉さんと言われたところで僕はアキラだ。今までの生の記憶がある。もし仮に、万が一、彼の双子の姉だとしても、ラウネル王国に足を踏み入れた時も何も感じなかった、思い出さなかった。
……適当なことを。
お前の願望を押し付けるな。
「イライラさせないで」
「そんな目で見ないでくれ、親の仇みたいに」
「触らないで」
手首を掴まれた手を、振りほどく。
リリーの愛を得ている、それだけで足りないのか。
「君が、僕を思い出してくれると信じている」
「止めて、しつこい」
逃げ出したい、一歩後ずさった足を、根性で止める。
僕がいなくなれば、リリーはクラウスのものになる……。
……追い出したいのか。
僕が何もかも嫌になって、出て行くのを待っているのか?
縋るような眼差しも全て芝居か。
その手には、乗らない。
「なんて可愛くない子。キスしたことはリリーには黙っててあげる」
「ガーネット、話を聞いて」
「いい加減、黙って」
ロッドを振り、ゴーレムを呼び出そうとしたその時、ハイラの竜が戻ってきた。メキラも一緒だ。
「二人とも、お待たせした。なにか言い争っていたようだが」
「なんでもないわ」
「……そうか。ならばラウネルの村に戻ろう。リリーが待っている」
「さあ、後ろに乗ってください」
とハイラが丁寧に促した。
「クラウス王子。彼女はリリーに協力して、各国の女神に協力を取り付けてあなたを助けました。口のきき方にお気をつけください」
「……よくわかったよ」
ポロン、と小脇に抱えたハープを一度鳴らし、クラウスは竜に乗った。
宣伝用のツイートの調子が何故か悪く、アクセスがががっと減って鬱。
感想・ブクマなどお待ちしておりますー(涙)




