第133話 リリー・ロック VS リリー・スワン
セティスに止めを刺そうとした瞬間に、目の前にダイアモンドナイトが現れた。殴られた衝撃で息が詰まった。
「ぐっ……う」
リリー・スワンだ。
薄い傷は負っているが、平気そうだ。全然死にかけてないじゃないか。
リリー・スワンは、僕にもセティスにも目もくれず、歩き出した。
場違いな白絹のブーツは、血と泥で汚れている。
「リリー・ロック、会いたかったわ」
「私は会いたくなかったわ。殺さなきゃいけない」
「そんなことどうでもいいじゃない。私の城に来て」
「断る」
「どうして? どうしてあなたは私を拒むの」
二人同時に肩を落とし、ため息をついた。
「あなたはどうしたって私を怒らせるのよ。リリー・スワン」
リリーがヴィアベルの鉾を構えた。
「あなたが私の恋人を連れてったからでしょ!」
呪文を唱えると、ヴィアベルの鉾から氷の刃が飛び出す。瞬時にダイアモンドナイトがリリー・スワンの前に立ちはだかり、全て叩き落とした。
「……どうしてわかってくれないの? あなたではダイアモンドナイトには勝てないわ。私の国で一緒に暮らしまょうよ。お姫様になりたかったんでしょう?」
私は覚えてるのよ、と彼女は両手を広げた。
「一緒に遊んだわ。お姫様になりたいって、あなたは何度も言ってた。だから私は、ブランシュにお願いしたの。女王にしてって。友達を呼んで幸せにしてあげられるからって」
「人の恋人を奪い、村を焼いて『何が幸せにする』よ。リリー・スワン、お前に恵んでもらわなくたって、自分で手に入れるわ!」
ヴィアベルの鉾が一閃、暴風が吹き荒れる。同時に矛先から無数の氷の刃が放たれる。
「同じ手は食わないわ」
ダイアモンドナイトが盾となり、氷の刃を叩き落とす。
「これならどう?」
再びヴィアベルの鉾が唸る。地面から氷の柱が飛び出した。
無数の氷柱に、鏡のようにリリーの姿が浮かび上がる。
「こっちよ」
「私はここよ」
「どこを見てるの」
「私はコッチ」
「ダイアモンドナイトは砕けないとしても、人間はどうかしら」
「……!」
本物のリリーの声に振り向いたリリー・スワンの胸をアメジストのナイフが貫いた。
「私がドレスを縫っていたのは、お前のためじゃない。王子様と出会うためよ」
ぐらりとリリー・スワンの体が倒れた。
「女の子は私の王子様には、なれないの」
「……リリー……」
「……姉さん!」
セティスが飛び出し、ブランシュとともに駆けつける。
「やめてよ、なんてひどいことを」
ブランシュの言葉に、リリーは目を剥いた。アメジストのナイフを握った手が震えている。
「ひどいですって、よくそんなことを。王子をさらったのはあなたでしょブランシュ。あなたが引き起こしたことよ」
血に塗れた手を振るい、リリー・スワンとセティスを突き飛ばした。
「最後のチャンスよ、クラウスを開放しなさい。さもなくばこの場でリリー・スワンを殺す」
「……」
僕は念のため、大地に手を付き、再度ゴーレムを生成した。
逃しやしない。
「……死ぬのはお前よ、リリー・ロック」
ブランシュの指輪が光った。
「リリー様!!」
ラスボス対決です。
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