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第132話 怒りのセティス

 黒百合の女神の転移魔法で、僕はリリーのもとに駆けつけた。

「リリー様!!」

 ゴーレムの腕で、ブランシュを吹っ飛ばす。

「きゃあ!!」

 子供の姿であってもやはり人間ではない。骨折してもおかしくない衝撃のはずだが、すぐに立ち上がる。

「遅かったじゃない」

「リリー様なら、余裕かと」

 ブランシュが持つ指輪は危険だと、忠告されていたおかげで助かった。立ち上がったブランシュが「許さない」と手を掲げる。また光ったが、鏡の盾で光を跳ね返す。

「無駄です。……ブランシュ、ダイアモンドの女神であるあなたが、リリー・スワンに味方するのはどうしてです」

「ともだちだからよ」

 以前も聞いた。

 リリー・スワンを友だという。

「……」

「ながい間、人間の国を治めてきたわ。わたしはつよいから。でもわたしはひとりぼっちだった」


 人のものをなんでも欲しがるからだろう。ヴィアベルが竜のハープを奪われて怒り狂っていたのを思い出す。


「森であの子と出会った。一緒に遊んでくれたわ。友達にしてやってもいいなって」

 さすがは女神、ずいぶんと上から目線だ。

「友達のためなら、他国の王子をさらっていいというものではないでしょ。クラウスをいますぐ開放しなさい」

 とリリー。

「いやよ」

「いや?」

「リリー・スワンはともだちよ、好きな子に会えたけど彼氏ができてたって。泣いてた。わたしはともだちの、のぞみを叶えてあげただけ」

「そんな理由で王子を、」

「……そんな理由で、姉を連れていったんですか」

 ずるずると足を引きずるように、傷ついたセティスがゴーレムに乗って姿を見せた。

「セティス。生きてたの」

 無数の切り傷から出血している。傷を癒やす魔法でも使えるのだろうか、服は血で汚れているが平気そうだ。


「女王なんかになるからだ。好きな人には嫌われて、魔女には城を攻められて死にかけた」

「死にかけた? 城壁をほんの少し叩くように命令しただけよ」

「竜のハープで全軍を奪われた」

 セティス怒りに満ちた目を全員へ向けた。そして僕につかつかと歩み寄ると、平手で頬を打った。

「……痛いじゃない」

「アキラ。いやガーネット。友達だと思っていたのに」

「……シャルルロアを攻撃すると教えてあげたはずよ」

 ここで殺すなら同じこと、と割り切る。幸い、火山の熱が、力の使い方を思い出させてくれた。自分の魔力ではなく、大地の力を変換して使う。

 リリーがブランシュの相手をしている間だけでも、足止めする。

「女王の弟、悪いことは言わないから。クラウス王子を開放しなさい」

「いやだね。僕は、リリー・ロックに城に来てと頼んだ時、断っただろう。姉の恋敵を出してやれるわけない」

「ブランシュがリリー・スワンを女王にしたから、今大変なんじゃない。倒すのはブランシュではなくて?」

 リリーが鉾を手に、再度、

「クラウスを開放しなさい。できないというなら、今度は容赦しない。リリー・スワンには死んでもらう」

 と迫った。

「それはできない。姉はたったひとりの家族なんだ」

「そう……。私には関係ないわ。ガーネット、片付けなさい」

「はい。リリー様」

 手にしたロッドでゴーレムを出現させる。紅色の巨人でセティスを取り囲む。

「残念だわ。ここで死ね」

 同様に、セティスもダイアモンドナイトを出現させた。

「ガーネット、君ともっと過ごしたかった」

 やれ、と同時にロッドを振るい、ゴーレム同士が激突する。その隙を縫って、炎の魔法をセティスの顔面を叩き込んだ。

「ぐぁぁぁぁ!」

「言わなかった? 私、魔女なの」

 ダイアモンドナイトに攻撃は効かないため、術者を叩けと、トレニアとハイラに、教えてもらった。しつこいくらいに。顔に火をぶつければ息ができず、意識を失えばゴーレムも同時に消滅する。

 バタバタと火を消そうと手で顔を叩いている。僕は手にしたロッドをでナイフを描き、出現させる。


「さよならセティス」


セティスとガーネットの結末は。

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