第130話 霧の朝、午前六時
いよいよ、リリー・スワンと戦います。
130 霧の朝、午前六時
濃霧に包まれた朝。
シャルルロアの城壁の前で、僕は杖を掲げた。
「始めよう」
僕とトレニア、竜に乗ったメキラとハイラ。
たった四人で戦を始める。
「描かれし者よ、我に従え」
土煙とともに、大地から真紅のゴーレムが立ち上がる。その数は500。杖を振りかざし、出撃を命じる。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
衝突音が早朝の空気を振動させる。城壁の内側から眠りを覚まされた人々の叫び声が響き渡った。
「城壁、無理して壊さなくていいからな。シャルルロア兵が出てくるまで騒げ」
「わかった」
メキラの指揮に合わせて、ゴーレムを移動させる。ところどころ、城壁が壊れたところはあるが、街の中には侵入しない。民間人を殺すつもりはない。
すぐに城門が開き、シャルルロア兵が出撃してきた。
「何者だ!」
敵将の誰何の叫びを無視し、杖を振ってゴーレムを消滅させる。目の前の敵が消えたことに、狼狽える様子が伺える。
「今度は北よ」
城の北側に移動し、再び城壁を攻撃する。
慌てて軍を移動させているが、近寄ってきた敵兵の鉄の剣では、ゴーレムに傷一つつけることはできない。もっとも刃が届く前にゴーレムに殴られて近づくこともできないのだが。
人よりも大きい土の巨人が、敵軍をなぎ倒していく。白い霧の中に赤い血が混じりはじめ、ようやく現実感のなかった世界に色がついた。
僕は戦争を始めたんだ。
霧の中で、消えては現れるゴーレムの群れに、シャルルロア兵に疲労の色が見える。
「ハイラ、火を」
「了解した」
火矢が放たれたと同時に、杖を振り風を起こす。火矢が敵陣に吸い込まれるより早く、炎の嵐になって燃え広がった。マントについた火を振り払うものの、吹き続ける風に煽られて悲鳴が炎とともに広がっていく。
「いつの間に、風の魔法までマスターしたんだ」
「特訓してもらった。街が燃えることはない?」
「それは大丈夫だ」
これくらい騒げば、シャルルロア軍の本隊が出てくるだろう。
「ガーネット、引くよ」
「はい」
街道を南に下り、追手を待つ。
「ガーネット、出てきたぞ」
追撃してくる部隊に、さらに火を射掛けた。白く輝いているゴーレムが先頭にいる。
リリー・スワンだ。
胸当てと兜を装備して、ダイアモンドナイトの手のひらに乗っている。
「何故、私の国を攻めるの、あなたたちは何者、」
「暁の魔女、とでも名乗っておこうかしら」
「待ちなさい、あなたはリリーのところの……」
「……気のせいじゃない」
止まるな、とトレニアが指示され、ゴーレムを走らせる。しかし、ダイアモンドナイトの方が遥かに速い。追いつかれて、横殴りの殴打をかろうじてかわす。
「待って、リリー・ロックはどこにいるの」
「ふん、知らないわ」
彼女は、ラダームブランシュ山で、クラウスの救出に向かっている。
「……」
無事に救出できれば、僕は用済みだ。
その時、背後に回り込んだトレニアのゴーレムが、斧を振り上げた。金属音が耳を突く。
「リリー・スワン、ラウネルを襲撃したことを忘れたとは言わせないッ、その命で償ってもらうわ」
ベリロスの魔力で作ったエメラルド色のゴーレムはその美しさに反して凶暴だった。女王を守ろうとするシャルルロア兵が次々と吹っ飛ばされていく。
「あなたたち……魔女ね」
「……」
「それなら遠慮しないわ」
リリー・スワンの号令で、ダイアモンドナイトがさらに城門から出撃する。
「50程度」
とハイラ。
「なめられたものね。ガーネット、本気出しちゃいなさい」
「まかせて!」
何度も練習した、引き寄せるイメージは完璧だ。杖を掲げ、宙に輪郭を描く。
「描かれし者よ! 来い!」
描いた通りの、巨体が現れた。
通常の三倍の、真紅の巨人に、敵軍が怯んだ。
「な、なんだあの大きさは……!!」
「逃げろ! 潰されるぞ」
自分が魔女になってしまった、喜びが無限の力を与えてくれる。
僕はリリーの役に立てる。
「行くぞ」
今までより三倍の速度で、敵陣を駆け抜ける。
「死にたいやつは前に出なさい」
鉄と鋼の武器では、傷一つつかない。やがて、城壁の前までたどり着いた僕は、さらに出撃する兵士たちの姿を認めた。
「止まりなさい、このダイアモンドナイトには勝てないわ」
「ええ、そうでしょうね。しかし、人間は別よ」
腰に下げていた竜のハープを取り出し、魔力を込め、弦をかき鳴らした。
「シャルルロア全軍に命ずる。女王を倒せ! 」
バトルシーン、頑張って書きました! 感想・ブクマ・ポイントなどお待ちしております~。




