第128話 セティスの誘い
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雨が降っていた。
ガーネットに変身し、リリーが縫ってくれたヘッドドレスと、ケープをつけた。食料を買いに行くのが億劫だというリリーの代わりに、街へ出た。その足で、セティスの店へ向かう。
久しぶりにセティスと会うと、リリーが街へ戻ったことを伝えた。
「僕が姉に伝えたらどうするんだ。君たちの作戦は失敗するかもしれないよ」
「好きにすればいい。友人として伝えに来たまでだから……。死にたくなければ、街を離れることね」
「アキラ。ガーネットに変身したって無駄だよ。君は迷ってる」
「そう? どうしてそう思うの」
「君は姉を殺すつもりだ。でも、人を殺して、リリーだけが幸せになる。割に合わないと思っているんだろう」
「迷ってなんかいない。リリー・スワンにも、クラウスにも消えてもらう。彼女は渡さない」
「それが君の幸せなのかい。ガーネット」
「好きな人と一緒にいたい。幸せになりたいと思って何が悪いのよ」
「君は……姉を殺さなくて済む方法を、探ってくれていたよね」
少し前までは、確かに、誰も傷つかない方法を探していた。
時間が経つにつれ、クラウスの救出の可能性が上がれば上がるほど、僕の気持ちは沈んでいった。
リリーが僕を愛してないのは解っている。
それでも、諦める気になれない。
「クラウスを助けて、リリーは花嫁になる。運命を変えられるのは今しかない。アキラを助けてあげられるのは私だけ」
「リリーは……。リリー・ロックは君を道具として扱って、自分だけ幸せになるつもりだ。利用されているのは気づいているだろう」
「それでもいい」
「ガーネット」
「チャンスは自分で掴むものよ」
リリーの幸せを見つけてほしかったけれど。
「私は、アキラが悲しむのを見て見ぬふりはもうできない」
リリー・スワンを倒せば、クラウスとリリーの結婚を反対する者はいなくなる。彼女の真の望みがそうなら、逆にリリー・スワンを生かしておいた方がいいのか……?
いや、違う。
生きていれば、シャルルロアとの戦が繰り返されるだけ。消えてもらうのが最善。
最後に笑うのは僕だ。
『戦争になっても構わない』とリリーは言ったが、きっと嘘だ。面倒事を増やしたいはずがない。
だからクラウスを救出できればいいと思っている。
僕を元の世界に帰して、さよならだ。
そうはさせない。
「リリー・スワンに伝えたいなら、好きにすればいい」
「ガーネット。僕と暮らさないか」
「……はあ?」
手首を掴まれて、立ち止まる。
セティスはそっと僕の肩を抱いて、引き寄せた。
「……」
耳元で何か囁かれたと同時に、持っていた僕のロッドが光った。吹っ飛ばされたセティスの体が、壁に激突する。
「……ぐっ……!」
「魔法を使おうとしたのね」
そういえば、セティスも魔法を使えるのを忘れていた。人を人形にできるかもしれない、魔法。
「触るな」
「……君が帰ってこなかったら、リリーは探してくれるかな……?」
「……さよならセティス」
待ってくれ、と叫ぶ声を背に、僕は夜の街へ駆け出した。
セティスと話すことで整理をつけようとするガーネットですが……。




