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第127話 暗殺計画



 ベリロスの策に従い、僕がシャルルロアの城下町を攻めるふりをすることになった。ちょっと、とトレニアに外に呼び出される。

「あの案自体はいいと思うのよ。でもね、本心を聞きたいんだけど」

「本心?」

「君の、よ。仮にうまくいってクラウス王子を救出できたとするわ。でも、リリー・スワンが生きてたら、また、ラウネルが攻められる。そう思わない?」

「はい。それは、そう思います」


 誰も聞いていないのを二人で確かめる。彼女もなにか聞かれたらまずいことを考えているらしい。

「ゴーレムで城下町を攻めるふりをするのはいいと思う。でも、リリー・スワンを片付けておくのがより良いと思うのよね」

「と、いいますと」

「リリーが手に入れたハープ、君が使えないかしら。そうすれば、シャルルロア兵を、全軍、操れる。どさくさに紛れて、女王を倒す」

「……」


 過大評価されている。竜のハープを使えるだけの魔力が、僕にあるとは思えない。

「……僕に使えるとは思えないんですけど」

「君もリリーも、勘違いをしているわ。私達の魔力なんか、たかがしれている。あくまで、精霊の力を借りていると解釈したほうが正しい。精霊の力は無限よ」

 あとで使ってみましょうと、トレニアは庭になっている木苺をちぎった。

 美味しいからどうぞ、と口に入れられた。


「君は、自力でガーネットの王冠を手にしたと聞いたわ。失われた旧王国の王冠をね。その力は今使うのがベストじゃない?」

 赤い宝石のような木苺は、ガーネットの色によく似ていた。

「仮に……。仮に、ハープを使って、シャルルロア兵を操れたとしましょう。リリー・スワンにはダイアモンドナイトがついています」


「女王といっても生身の人間よ。女神がついているなら、よりいいわ。ブランシュも一緒に足止めできる。一番の目的は、リリーが石を破壊して、クラウスを助けることよ。私達は、リリー・スワンの足止めをする。まあ、操られた自国の兵に倒されるなら、それはシャルルロア国内の問題よ。君が気に病む必要はないわ」

「……」

 そうだ。兵を操られたとしても、それは操られた側が悪い。それにリリー・スワンは、リリーを独占したがっている。

「シャルルロアの今の女王が、うっかり倒されてしまったら、また別の女王を女神が選ぶでしょう。私達が心配することはないわ」


 リリーは僕が守らなくては。


「トレニアさん、僕がすることは、リリー・スワンの足止め、でいいんですね?」

「ええ。あとは黒百合の女神に頼んで、氷河の地下へ移動する。女王を足止めしている間に、あのでかい石を破壊して、クラウスを救出する。ブランシュの指輪でリリーが吸い込まれてしまったら、こちらの負けになるわ」

「もし吸い込まれたら」

「君が代わりに石を壊すのよ」

 トレニアは最悪の事態を想定しているようだ。

「僕に、ヴィアベルの鉾が使えるでしょうか」

「このメンバーの中では、君ぐらいでしょうね。カインは幽霊だし、メキラとハイラは別に女神たち

の石を持っているわけではない。シャーロットは猫だし、なにより、黒百合の姉妹たちに信用されているのは君よ」


 恋敵を助けるために、僕が力を尽くさねばならない。

「……わかりました。でも念の為、練習してみていいですか」


 

 竜のハープを持って、トレニアとシャルルロアの街へ出た。

 本当は、暗殺なんてさせたくない、とトレニアは俯いた。

「ゴーレムを動かして、シャルルロア兵を操ってもらう。でも、メキラとハイラに守らせるから。君が罪の意識を感じることはない」

「ありがとうございます。でも、結果として暗殺が成功するならおんなじです。……あなたは、本当は、僕とリリー様に、誰も殺して欲しくないんですよね」

「……」

「クラウスを助けたら、リリー様はお妃様になる。その時に手が血塗れだったら可哀想ですもんね」


 ガーネットの姿に変身して、噴水のある広場で、ハープをかき鳴らす。

「やってみます」

「ただ鳴らすだけじゃダメ、人々に命令するの」

「なんて?」

「危険がないコトにしましょう。そうね、えーと、しゃがんでジャンプするとか」

「なにそれ楽しそう」

 もう一度、ハープを鳴らした。心の中で、

(しゃがんで、飛び上がれ!)

 と命令する。

 すると、噴水の周りにいた人々の瞳から光が消え、いっせいにしゃがんだと思ったら飛び上がったではないか。

「……できた……」

「アンタ、たいした魔女じゃん。帰ろっか」

 帰り道、塩漬け肉と果物とパンを買った。二人でひとつずつ包みを持つ。

「リリーは苦労してる。だか幸せになってもらいたいの。友達だもの、仕事を手伝うのは当然よ」

 それが暗殺でもね。

 おそらく、トレニアだって、人間相手に直接戦ったことはないのだろう。怖くないはずがない。

「トレニアさん。ハイラとメキラは歴戦の戦士です。きっと守ってくれます」

 きっと大丈夫。真っ赤な夕暮れに伸びる影を踏みながら、何度も呟いた。





トレニアと内密に計画を進めます。

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