第126話 最終決定
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食事を済ませて、もう一度話し合う。
ブランシュを捕まえ、女神自身に、巨石を破壊させるというのがリリーの基本的な方針だ。
「さて、リリー・スワンを人質にして、ブランシュを捕まえるということだが、城に侵入しないといけないだろう。その場合、リリーが捕まったら終わりだ」
とメキラ。
2番目のブランシュだけを捕まえて、強制的にランズエンドに返す計画の場合、巨石を攻撃する衝撃で、ブランシュが現れるのではないか、と予想した。
「大事なものなら、壊されそうになったら飛んでくるでしょ?」
ゴーレムを使用し、捕獲する。そのままランズエンドに強制連行、というわけだ。
「2番の計画のほうが、城に侵入するより安全そうね」
とトレニア。
「だが、ブランシュの能力がどの程度のものかわからない。相手は神なんだろう」
ハイラの問いに、トレニアとリリーが答えた。
「ラウネルの王城は、ゴーレムの群れに攻められて、ひどい目にあったわ。ブランシュは目標を捕らえて撤退した。戦になるとか、住民の命には興味がないのね」
「ありとあらゆる物を石に閉じ込めることができるなら、無敵といっていいでしょうね。指輪のダイヤが光って吸い込まれるんでしょ。視界に入る者は消せるってことになる」
それなら、石を破壊する前に攻撃されたら終わりではないだろうか。
僕には、3メートルはあろうかという巨石を、数分で壊せるとは、とても思えない。
「内側から出る方法があるならいいですけど、吸い込まれた後に脱出できなければ、危険です。閉じ込められた者がいつまで生きてるかわかりません」
「生きてるわよ。クラウスは2年前に誘拐されてけど、無事だと言われたでしょう」
あくまで最終目標は、石を破壊し、クラウスを救出することだ。
これといって進まない話し合いら、トレニアが提案した。
「戦が得意そうな神様に聞いてみましょ。人間だけでなんとかなるとは思えないわ」
「そうしよう、我々が思いつかない方法を教えてくれるかもしれない」
ベリロスとラトナを呼び出すと、彼女たちはブランシュを捕らえることには反対した。
「姉さまを捕まえたところで、言うことを聞くとは思えない。無視していい」
ベリロスは小さい体に似合わない大きさの、エメラルドの瞳をぎらつかせて、テーブルの上で笑った。
「リリー、お前は私達の力を使う権利がある」
「ありがとう。でも、巨大な石を破壊する方法がわからないの。ブランシュにやらせようと思ったけど、無理だというなら……」
「ヴィアベルの鉾を中心に、そこに我々の力をぶつければ、石は割れるだろう。中に入っている者を助けたらラウネルへ戻ればよい。シャルルロアの城を落とす必要はないだろう」
「力をぶつける……?」
「アキラ。お前達が我々を集めたのはなんのためだ。私とラトナ、ヴィアベル、カルコス、それに……今は黒百合と呼ばれているのだったな……。私達を5つも集めたのは、勝てるか不安だったからではないのか」
「……はい、そうです」
「異国の子よ、お前は我がブランシュより劣っているとでも?」
ベリロスは相当に気位が高いことを忘れていた。
カルコス、ヴィアベル、ベリロス、ラトナ、そして黒百合。カルコス以外は、みんなブランシュの妹だ。
ラウネル王国は小国、シャルルロアは大国だ。
下剋上を成すには、姉を快く思わない妹たちの力を借りなくてはならない。
「まさかそんな。これだけいて、勝てないはずがありません」
「我々が手を貸してやるのだ、失敗など許さん。カルコスとヴィアベルにも協力を頼んでおけ」
「わかりました。ただ、ブランシュおよび、リリー・スワンに気付かれないようにしたいと思うのですが」
それについては、提案がある、とハイラが挙手した。
「アキラがガーネットに変身すれば、ゴーレムが作れるだろう。ゴーレムを大量に出して、城を攻めるふりをするんだ」
「シャルルロアの兵が出てくるんじゃない?」
「それでいいんだ。城を攻められれば、ブランシュもリリー・スワンも山に意識を向けることはないだろう」
「石を壊すのに専念できるってわけね」
大切なのは敵を一度に相手にしないことだと、メキラが説明する。
「アキラ一人で囮役をさせるわけではない。オレ達がつく。時間を稼ぐだけだ、女神たちの力を集中させて石を壊すだけなら、1時間もみればいいだろう」
ハイラが紙に絵を書いて、計画をまとめた。
「氷河の地下まで、黒百合の女神の力を使って移動すれば、1分でつく。巨石にヴィアベルの鉾を刺し、力を集中させて石を破壊する。黒百合に一度、アキラのところへ戻ってもらい、ワープさせれば、ゴーレムは消滅して、兵は引くだろう。直接戦う必要はないんだ」
僕にそんなことができるのか……?
「霧が出る日を狙おう。ゴーレムを500程出して、一見大群に見えるようにするんだ」
「街の外に兵の気配を感じれば、民が気づく。そうすれば、シャルルロア兵の本隊が様子を見に来る。火矢でも射掛けてやればいい、街を守るつもりがあるなら、引き返すだろう。こちらはゴーレムだけだから、死人がでることはない」
トレニアが、
「アキラは一般人なのよ、いくらなんでもシャルルロアの軍を引きつけるなんて」
「号令はオレたちが出す、アキラはゴーレムに指示を出して、移動させるだけでいいんだ。できるだろう、魔女なんだから」
過大評価されている気もするが、実際に石を壊すのがリリーの役割なら、囮は僕になるのが当然だ。
協力すると決めたのは僕自身なのだから。
「……」
「……」
決断、しなくてはならない。
「君の、というより、ガーネットとしての力が必要なの。君が決断すれば、仕掛けるわ」
石を破壊すれば、クラウスを助け出せる。
この旅が終わる。
リリーの望むハッピーエンドで。
いつか終わりが来ることは解っていた、でも、まだ決心がついてなかった。リリーのハッピーエンドは僕にとっては、辛い結末だ。
本当の僕はどうしたい?
僕の本心は。
「アキラ、決めなさい。やるの? やらないの?」
チャンスは必ず来る。僕がどうするかは、僕が決める。
「やります。任せてください」
いよいよ救出作戦に入ります。




