第125話 プランBはどこに。
2021年、最後の更新になります。
翌日は、リリーは用事があると出かけ、トレニアは「せっかくシャルルロアに来たんだし」と買い物に出かけた。
残った僕たちはスープを作ったり、パンを買ってきたり、店の掃除をしたりして一日過ごした。日が暮れて、リリーとトレニアが帰宅した頃、ジャスパーが再び訪れた。
「薬が効いた。妹が、もう苦しくないと。久しぶりに起きてる」
これは礼だと、酒瓶をリリーに渡した。
「まあ、わざわざいいのに。それなら、これを持ってお行き」
野菜スープを小鍋に分けると、
「病人には、最初はお腹に優しいものを食べさせるのよ。鍋は返さなくていいからね」
わかった、とジャスパーは素直に鍋を受け取った。
あんたたちの役に立つかわからないが、と鍋をテーブルにおいて話しだした。
「ハープを盗んだ時、城で女の子を見かけた」
「そりゃ大きな城だもの、メイドぐらいいるでしょ」
「そうじゃねえ。その女の子が、ハープを盗み出そうとした別の連中を、消したんだ」
「消した?」
「吸い込まれた」
「何に吸い込まれたのよ」
「指輪だ。その、女の子が持ってた指輪が光った。光の中に吸い込まれて消えた」
どんな女の子か聞くと、銀髪のおかっぱ頭、氷のように透明な肌をしていたという。
「半袖を着てましたか」
「ああ」
間違いない、ブランシュだ。
「その盗賊は、『悪い人』と認定されて、捕まったのでしょう」
クラウスを誘拐した後に、どうやって姿を消したのか、やっと謎が解けた。
「方法は解った。問題はどうやって解放させるか、よ」
僕はジャスパーに、近くにリリー・スワンがいたか尋ねた。
「いなかった。ハープはバルコニーにすぐ出せるように、バルコニーのすぐ近くの部屋に片付けてある。そんなところに女王がいるわけないだろう」
黒百合の女神も、自由に行動している。リリーが一緒にいてと言うから行動を共にしているだけだ。ブランシュが城の中を自由に移動できて当然か。
「リリー・スワンの命令がなくても、ブランシュはいつでも力を使って、『悪い人』を捕まえられるってことね」
とリリー。
ジャスパーはポケットから見取り図を取り出した。
「アンタがくれた物に書き足してある。城門から3階までの見取り図だ。隠し通路なんかは知らん」
「あら、いいの」
「……今のところは、アンタからもらった金がある。盗みは、しない」
メキラとハイラが諭したのが効いたのだろうか。
ブランシュは、リリー・スワンの命令やお願いを聞いているが、あくまで自主的に動く。
本来の彼女の住処である雪山と、シャルルロア城を自在に移動できる。そして、ブランシュが持つ指輪は、氷河の中の巨石につながっている。
クラウスはその中に閉じ込められている。
「中から壊すのは難しそうって言ってたわねアキラ。やっぱり人間であるリリー・スワンを囮にして、ブランシュを捕まえることにしましょ」
「捕まえる」
「女神自身に、石を破壊させるという案自体は変わってないわ。ランズエンドに首に縄をかけてでも連れて行く。そうしといて、石を破壊させればいわ」
晩御飯にしましょう、とリリーは庭で塩漬けの固まり肉を焼くとにした。
「アキラ、スープのお鍋見ててくれる? あと、パンを焼いて切り分けて」
「はい」
手伝うわ、とトレニアも庭へ出た。
「あのさあリリー。あんた、本当は別の方法を考えてるんじゃないの」
「思いついてたら言ってるっつーの! 何も!! ない!!」
「……まじでー」
「アメジストもダイアモンドも、銅もルビーも、黒百合の女神の姉妹たちはみんな土なのよ。アキラが持っているガーネットもね。絶対に壊せない、なんてことはない、はず。でも案がないなら、現行で成功率の高い方を話したほうが、みんな安心するでしょう」
「石の中にいるクラウスはまだ生きているのよね。それなら外から破壊したら……無事じゃ済まないかも」
「そこなのよねえ……」
固まり肉を焼きながら、どうしたものかと空を仰いだ。
「まあ、メシ食って考えましょ」
今年もお読みいただきありがとうございました!
来年もよろしくお願い致します。
水樹みねあ




