第123話 へなちょこリリーは戦争を起こしたい
シャルルロアに戻ってきました。
リリーの店へ戻ると、すでに彼女は一杯飲んでいて、上機嫌だった。
「おかえり、氷河観光どうだった」
「すごかったです、あと、多分なんですけどダイアモンドナイトの本体と会いました」
「へええ、本当!? みんな適当に座って」
台所からリリーがシチューを煮た鍋を持ってきた。暖炉で炙った干し肉を切り分ける。
「聞こうか。あったかいうちにお食べ」
「どっちですか」
スープ皿に取り分ける。ひとしきり食べたり飲んだりして、テーブルが皿でいっぱいになった頃、カインが口をひらいた。
「ブランシュと名乗る子供が氷河の中にいた。その子供が氷河の洞窟の中に、リリー・スワンの邪魔になる者を閉じ込めていると言っていた。あくまで私の想像だが……、ブランシュはリリー・スワンの不利益になる者を『悪い人』と認識して、捕らえている。おそらく、女王の意思とは関係なく、独自で動いているのだろう」
「……自主的に、動いていると?」
「たぶんな。リリー・スワンはお前を好いているのだろう。おそらく、お前と付き合っていたクラウスを『悪い人』として連れていったんだろう」
「私が原因だといいたいの?」
「お前は悪くない。結果論だ」
氷河の洞窟の中に巨石があり、その中に捕らえられていると絵に描いて説明する。
「うーん。壊せそうだった?」
「大きくて無理ですね。槍や剣でなんとかなる大きさではありませんでした」
「ヴィアベルから借りた鉾は通常の武器ではないわ。でも、石を壊せないなら、ブランシュを倒すしかないわね」
「……子供でした」
「それが何。子供なら人の彼氏を無断で連れてっていいわけ?」
ちょっといいかと、ハイラが僕のリリーの間に入ってきた。
「まあまあ落ち着けって。ブランシュは、黒百合の女神のお姉さんなんだよな、4番めの女神ということであれば。子供の姿をしているのは何故なんだ」
「私たちは何にでもなれる。大人の姿になる必要がお姉さまにはなかったんでしょうね」
黒百合はすぐに答えてくれた。
そうか、神々というのは、自分の姿を自在に変えられるのか。言われてみれば、銅の国のカルコスも、ランズエンドに住む彼女たちの母親も、みんな似ていたが、大きさや肌や髪はみんなバラバラだった。
「気持ちや考え方も、子供のままでしょうか」
「そうなんじゃない? そうでなきゃ、他国の王子を捕まえないでしょ」
おとなになる必要がなければ、子供のままでいる。人間は年をとってしまうが、神々はそうではないということだろうか。
「シャルルロアの女王は、クラウスを誘拐したことを知っているのか? それは彼女の命令なのか」
ハイラの疑問は、以前から僕も感じていたことだ。
「知らないと思います。ダイアモンドナイトはリリー・スワンの邪魔になるものを消してあげているつもりなんです。ゴミを片付けるような感覚だと思います。人間側の理屈ではなく。彼女は友達の手伝いをしているつもりなんでしょう」
「アキラから見たら、私の彼氏はゴミのような見えるのかしら」
「そのようなことは申し上げてませんよ」
さっきからチクチク棘を感じる。
「不愉快にさせたなら謝ります」
「まあまあ。リリー、ダイアモンドナイトを説得するか?」
「まさか! 友人のためにしていることを、他人から指摘されて、ひっくり返すと思うの?」
そりゃ無駄よと、リリーはひらひらとを手を振った。
「その巨石は、女神の力で守られていると仮定して。それなら、鉾なり槍で突いたら、すっ飛んでくれると思うのよ。そのブランシュとやらが」
「?」
「女神自身に、石を破壊させる。リリー・スワンを人質に取ってでもね」
「……怒ったら?」
「怒らせるのよ。人間の力で敵わない可能性があるなら、別の策を用意しておかなくてはね」
……大胆な策だと、メキラが頷いた。
「最初の案としては。竜のハープで、ダイアモンドナイトこと、ブランシュをおとなしくさせて、ランズエンドに返品する。女神の力がその場から消えれば、石を壊すことができるかもしれない。女神の力失ったらリリー・スワンはほうっておけばいいわ。殺す必要はなくなる」
「よろしいので? あなたの目的は女王の暗殺だと思っていたが」
「私はシャルルロルアを滅亡させたいわけではないのよ。クラウスを取り戻せればそれでいい。リリー・スワンが怒って戦いを挑んできたら戦えばいいわ」
「戦争になります。国同士の」
「ええ、大きな戦争になるわ」
いまさら何を言ってるのよとリリーは笑った。
「へなちょこリリーが戦争を起こす。最初から、そのつもりだった」
123話にしてタイトル回収かよー、という。




