第119話 すべてを燃やせ
海の神と言えば鉾だろう。
問題があるとヴィアベルは人差し指を立てた。
「ランズエンドにダイアモンドナイトを返したところで、母はお前たちを助けないでしょう。人間に干渉しないと言っているのだから」
「母は面倒を嫌うから……。どうしようか、アキラ」
僕たちの目的は、シャルルロアのどこかに囚われていると思われる、クラウス王子の救出だ。
ダイアモンドナイトの力が使えなければ、女王リリー・スワンはただの人だ。ダイアモンドナイトと引き離すことができればいい。
「大地に埋めるとか」
「私たちはもともと土の精霊なのよ」
効果ないか。ダイアモンドは炭素の結晶だ。
「……火で燃やす」
「そう。でも、1分や2分では燃えないわよ。炎の魔法程度では効かないわ」
「……城ごと、燃やす。2、3時間も燃えれば……」
「ダイアモンドナイトは巨体だけど素早く動くわ。シャルルロアで見たでしょ」
それなら、とヴィアベルは玉座の後ろから槍、いや、鉾を取り出した。
「竜のハープを取り返してくれたら、このトライデントをあげましょう」
「三叉の鉾って大事なものなんじゃないですか」
「武器なんてまた作ればいいもの。私たちは人間よりずっと長く生きる、気にしないでいいのよ」
「あなたたち姉妹にとっては、ただのケンカなのね。私は彼氏を取られてるっていうのに」
「リリー様」
「アキラ、トライデントを借りたとしても、ダイアモンドナイトを串刺しにする技術がないわ。私は魔女、騎士じゃない。ましてや、相手はダイアモンドだもの。人間の力では刺さらないわ」
甘いわね、とヴィアベルは立てた指を横に振った。
「なんとこの鉾は嵐を起こせるのよ!」
「え、ええー!?」
「足止めぐらいはできるでしょ。その間に燃やしちゃいなさい」
自分の姉を燃やせとか物騒だな……。言い出しっぺの自分が言うのもなんだが。
「嵐以外には何か出せるの?」
「水よ」
「水」
海の世界の神って感じするな……。
ヴィアベルは黒百合の女神によく似ている気がする。ちょっと説明が雑なところとか。
「本体を燃えせば、黒百合、あなたのように人の姿を取るのでは?」
銅の国のカルコスは、石の肌をしていて、全体的に人形のようだった。
エメラルドの女神、ベリロスは小さい妖精の姿だった。ヴィアベルは人と同じ姿をしているが、水中で暮らしている。人間の常識は通用しないといっていいだろう。
「あなた方姉妹は、自分たちが過ごしやすい姿になれるのでしょう。炎の中を逃げようとすれば、ダイアモンドナイトよりも小さい姿に変身するのではないでしょうか」
小さい状態で捕まえて、どうするか。
「ランズエンドの母君が引き取ってくれないなら、海中に沈めるとか、火山に投げ込むとか……。ひとまず、人間の手が届かないところに。女神の力を別の者が使うかもしれません」
「ケロッと冷たいこと言うのね」
「リリー様は、リリー・スワンに恋人を奪われてるんです。手段を選んでいられません」
シャルルロアの城を燃やすことも、女神であるダイアモンドナイトを燃やすことも。
全てはリリー様のため。
「クラウス王子を間違って燃やさないようにしないと。火を放つ前に救出する必要があります」
失敗したら、彼女が悲しむ。
彼女に役に立つと思ってもらわなくてはならない。それまでは、クラウスに生きていてもらわなくては。
僕がこの世界に呼ばれた理由を、悲しみで終わらせない。絶対に。
「それでは、女神ヴィアベル、この鉾をお借りします。必ず竜のハープを取り返します」「ええ、お願いね。返してくれるまでは、自由に使っていいからねっ!」
僕の邪魔をする、すべてを燃やしてやる。
三国無双だと、火計はおなじみですね




