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【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第10章 海の王国シュテルンメーアと雪山のブランシュ
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第118話 海の王国の女王ヴィアベル

黒百合の女神の姉・ヴィアベルに会いに行きます。

118  海の王国の女王ヴィアベル

 

 渦潮と玉ねぎの街、アワージの港に着くと、玉ねぎと魚のミンチを焼いたハンバーガーを頼んだ。食べながら、リリーが

「で、渦潮の下の王国にどうやって行くのよ」

 と聞いた。

「やっぱり吸い込まれるんじゃないですか。でも竜のうろこは二個しかありません。万が一、僕とリリー様の手が離れたら息ができなくて死ぬかも」


 ポテトを食べながら、ハイラが

「オレの竜がいる。リリーとアキラ、カインもロープで身体を結んで、一緒に潜ったらどうだろう。三人同時に渦潮に引き込まれれば、たどり着けるんじゃないか」

 と提案した。


 渦潮は流れの速い潮流と遅い潮流がぶつかって、渦が発生する。巻き込まれたら骨が折れるのではないだろうか。


「お前たちの魔力で、こう、身体を包んだらどうだ」

 とメキラ。

「そんなことやったことないわ」

「やってみればいい。自分の周りに、一枚、布で包まれてるイメージで魔力をまとうんだ」

 言われた通り、薄い膜で包まれている様子をイメージする。

「集中してて」

 そういうとメキラは、コップの中の水をパシャッとかけた。

「……濡れてない」

「これを維持できれば、渦潮の中でも、身体を守れるだろう。たぶん」


 それで行きましょう、とリリーがハンバーガーを食べ終えて立ち上がった。町の道具屋でロープを購入し、しっかりと結びつける。

「じゃ、行こうか」

 ハイラの竜に乗り、渦潮の上空までやってきた。10メートル以上はあるだろう。

 本当に大丈夫なのか……?


「よーし……!! 行くわよ!」



 

 水の中……というより、渦の中は空気を引きこんでいて、泡が光の粒のようにキラキラ光っている。

 そして次第に、潮流にのって、身体が流される。


 洗濯機の中にいるみたいだ……!!


 

 リリーとカインと、僕を結んでいるロープはつながっている。

 下に引き込まれるように、どんどん深く引っ張られる。



 竜のうろこのおかげで、息もできるし、地上と同じように歩けるようだ。

 サンゴ礁の森がどこまでも広がり、オレンジや黄色の色とりどりの魚たちが群れをなして泳いでいる。透明度の高いのか、魚の模様までクッキリ見える。

 しかし、視線を移せば、その先にあったものは、崩壊した城の残骸。

 「ひどいわねえ」

 海底王国、と言える、たしかに街が広がっている。

 海の底なのに、明るい。

 しかし、その中心にある城は、あちこち崩れ、女神の居城とは思えない姿だ。


 だが、門番がけなげにも二人立っていた。

 彼らは人魚のようだ。

 すい、と黒百合の女神が、彼らの元へ歩み寄った。

「女王に会わせてもらえるかしら。私は女王の妹よ」

「……訪問者だと……。しかも妹だと」

「7番目といえば伝わるわ。私たちはここにいるから、取り次いでちょうだい」


 確認から戻った門番が、ご案内いたします、と城門を通してくれた。



 陽の光が差し込む王の間に通される。

 サンゴ礁の玉座は真珠で飾られていて、柔らかい光を放っていた。


「あなたから訪ねてくるなんて。何百年ぶりかしら」


 真っ白な肌に、海に溶け込んでしまいそうな青色の髪。きらきらと輝くサファイアのネックレスを身に着けた彼女は、黒百合の女神よりも幼く見えた。



「我が名はヴィアベル。妹が友達を連れてくるなんて嬉しいわ!」



 歓迎はされているようだ。

 リリーとカインは「あんまり似てないな」と話している。


「女王ヴィアベル、はじめまして。僕はアキラと申します。あの……。この城の有様は……?」

「ダイアモンドナイトに攻撃されたのよ。竜のハープを奪われた」

「あの……。ダイアモンドナイトは、お姉さんなんですよね」

「ええ。妹の持ち物を勝手に持っていくなんてひどくない?」

0 ときおり、玉座の間をふよふよと小魚が通っていく。中には女王の髪の中で休んでいく魚もいる。


「竜のハープ……。シャルルロアの城のバルコニーにあった、あれかしら。民を操るための」

「それは本来、王の仕事なのに。母様がくれたハープを、人間に与えたのよ」

 リリー・スワンを楽にするために道具を奪っていってらしい。

「そりゃひどい」

 姉の横暴に怒りを隠せないヴィアベルは、玉座の肘置きを握りしめた。


「実はお姉様。この子はリリー、私の友達なんだけどね彼氏をダイアモンドナイトに取られちゃったのよ。ひどくない?」

「なんでも人の物を欲しがるのはよくないわね」


 物も人も国も関係ないのよ、とヴィアベルは肩をすくめる。


「ねえあなた達。竜のハープを取り返してくれない?」


 この国には魚と人魚しかいない、兵力はない。


「ダイアモンドナイトと違って、地上では戦えないのよ」

「わかりました。代わりと言ってはなんですが、ハープを取り返したら、ヴィアベル、あなたが持つ、サファイアを貸していただけませんか」

「別に構わないけど、何に使うの」

「僕たちは……。ダイアモンドナイトを、あなた方の母のところに送り返すつもりです」

 ダイアモンドナイトの魔力と、シャルルロアの兵力は強大で、小国のラウネルでは勝ち目がない。女神の力をいくつも借りて、シャルルロアから追い出すだけだと、説明する。

 玉座の上の、ヴィアベルの両目が輝いた。

「帰す? あなたたち、ランズエンドに行ったことがあるの? 母様はお元気? 彼氏の人間は元気だった?」

「ええ、お元気です。子供たちのことに口出ししないと仰られました。……ダイアモンドナイトには、実家に帰っていただき、ラウネルの王子を取り戻したい」

「いいじゃない。ハープを取り戻してくれたら協力してあげる」

 よし、女王と約束を取り付けたぞ。


「姉様を懲らしめて」


 

姉を懲らしめてと頼まれるアキラは、次の策のために動きます。

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