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【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第9章 雪と氷と呪いの女王~ヴィルガー王国編
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第115話 流涕の春

カインの思い出話はここまでになります。



 城内の教会の修復、湖水を流してしまったマーナサローワル湖周辺の整備、フレイアの供養をするための祭壇作りと、テキパキとレイフィアが指示をした。供養のために、フレイアの子の名前を調べる必要があり、史料の中からその名前を探した。

 テオドール、と名前を見つけ、新たに墓を建てた。

 王家の人間が、フレイアとテオドールのために花を捧げ、祈ることを決めた。

 ハイラとメキラは、ラウネル王国で暮らすことになった。

 ラトナこと炎のルビーは、ヴィルガー王城で保管されることになった。


 黒百合の女神が、瞬間移動でいつでも帰れるのだからと、数日の滞在を許してくれた。



 私はアイフィアから羽根帽子を贈られた。

「約束しただろう。よく似合っているよ」

 羊毛のフェルトで作られた、新緑の色の帽子。白い水鳥の羽根と、カルラの羽根が飾りとしてついている。羽根は歩くたびに揺れて、光の加減でオレンジから青、緑、赤、と不思議と色が変わって見えた。

「ありがとう……。気に入った、とても」

「……良かった。さあカイン、帰らなくてはならないね」

「……うん」

「なにか困ったことが起きたら、いつでもおいで。力になる。レイフィアにもちゃんと言い聞かせておくからね。もし女神の力が必要になったら、炎のルビーも貸そう。約束だ」

「……うん」

「カイン、なぜ泣く? 私達は友達だ、ずっとこれからも。そうだろ」

 どうか元気で。また今度。

 さよならは言えない。何を言っても嘘になる。

 あなたの前で嘘はつきたくない。

「……ああ、そうだ……」

 私達は友達だ。

「良き王になれる。私が保証するよ。また会おう」




 ラウネルへ戻り、しばらく経った。

 レイフィアがヴィルガーの王位に就き、挨拶にやってきた。


「兄の形見です。ラウネル国王、あなたへ」

「……形見……?」

 宝石箱を開けると、翡翠のような柔らかい緑色の石のペンダントが入っている。木の葉のような、涙の雫のような、なめらかなラインだ。新緑の木々を溶かしたような、透ける翡翠色。

 湖に潜った時に、ハイラたちがくれた、竜のうろこだ。

 水の中でも息ができる不思議な力がある。その時はもっと表面はゴツゴツとしていた。


「アイフィアは……。そんな……。どうして」

「フレイアの呪いは解けました。しかし兄にはもう体力が残っていなかったのです。肺を以前から患っていた。これは竜のうろこです。ひとつは兄の墓に、もうひとつは、あなたが忘れていったものです。兄が研磨してペンダントにしたものになります」

「……」

「あなたに羽根帽子を差し上げた。羽根帽子を贈ることは、相手の幸せと自由を願うもの。被っていてくれて、兄も喜んでいることでしょう」

「……同じ色だ」

「……ラウネル国王、兄は……あなたを利用したのです。当家にかけられた呪いを解くために」

「レイフィア殿。それは本心ではあるまい」

「……」

「利用しただけだって? 馬鹿な」

 私たちはきっと同じくらい、想い合っていた。

「アイフィアは、私がこれ以上夢中にならないように線を引いてくれた。利用するだけなら、あんなに優しくしなかっただろう。彼にそう言えといわれたのだな」

「……手紙を預かっております」

 ちぎれた便箋に、細く乱れた字で綴られていた。


 自由に生きろ、私の分まで。


「ほら。彼は優しい人だ。……嘘がつけない」

 レイフィアは握りしめていた拳を開き、涙を拭った。

「……ええ、そうです。兄に言われたのです。未練を残すことのないようにと。ですが……。兄は死の床で、カイン、あなたの名を呼んでいた。最後まで。会いたいと」

「また会えるって……。会えると言っていたのに……!」



 そうか。

 約束ではなかったんだな。


 だが、私達は友達だ、ずっとこれからも。

 竜のうろこのペンダントを首にかけた。

「……そう……。アイフィア……。そうか……」

「カイン……」


 逝ってしまったんだな。


「……ああ……あぁぁぁぁぁぁ……!」


 さよならは言わない。

 泣いたっていうものか。





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