第110話 氷の湖と竜のうろこ
ハイラが口笛を吹き、竜を呼び出した。同じくメキラも指笛を吹いて、巨大な鳥を呼び出す。
「いやっ、デカいな!!」
「友達だ。怒らせなければ食べたりしない。さ、乗ってくれ」
ハイラの竜にまず乗り、その後ろにアイフィアが乗った。黒百合の女神は、メキラの鳥の背に乗った。
「うわあー……」
「……高いな」
しっかりとアイフィアが腰を掴んでくれている。
竜の背中は骨太で、しっかりと太ももに力を入れてないと振り落とされるからなとハイラが注意した。
カイラース山は険しい岩山で、山頂に近づくほど岩肌が目立つ。雪に覆われた中腹のあたりまで飛ぶと、眼下に湖らしき窪みが見えてきた。
凍りついた湖に降り立つ。
湖面には、霜の結晶が氷の華となり、輝いている。氷の花畑は太陽の光を浴びて、白と銀の世界をつくりだしている。
さて、どうする。
「割る……?」
「割れたとして、この氷水の中を泳ぐ気?」
「私がか!?」
「あなたが言い出しっぺでしょう」
そりゃあんまりだ、と私が抗議すると、メキラが助け舟を出した。
「女神よ、お姉様がこちらの湖にいらっしゃるか、まず確かめなければ」
それもそうねと、凍った水面に進み出た。
「姉様、いらっしゃるのであれば、お答えください」
氷の上を渡る凍てついた風が止んだ。
パキパキ……と湖面に亀裂が走り、勢いよく氷が弾け飛んだ。
水の中から、黒百合の女神によく似た美女が姿を見せた。
「何用だ」
「お姉様、私です。お久しぶりです」
「森へ降りた娘ではないか」
「ラトナお姉様を迎えに来たのです」
「人間共は我をこの湖に投げ捨てた。今更何の用だ」
話すたびに氷が轟々と音を立てる。
女神の怒りは誰の目にも明らかだ。
「お姉様を取り戻すために来たのです。この子たちが」
「人間どもに使われるのはもう飽きた」
飽きた、とはやっかいな。黒百合の女神同様、興味をひくような提案がなければ、彼女の協力は得られないだろう。
飽きた、退屈、うんざり。
長い時間を生きる彼女たちは、人間たちの世界にすでに飽いている。
「女神よ、湖の中にいても退屈には違いないでしょう。せめて場所だけでもお示しくださいませんか」
湖から光の柱が7本立ち上がった。
「我を迎えに来たと言うのであれば、力を示せ」
「黒百合の女神、この氷の湖にカインを潜らせるのは酷というものです。この火山の力で、雪を溶かすことはできませんか?」
メキラの提案に、黒百合の目が驚きに見開かれた。
「火山を目覚めさせろって言うの」
「面白くないですか? いえ、無理ですよね?」
「面白いわ!!」
彼女は両手を地面に付けると、
「カイラース山よ我が命じる、地の神に従え」
すると、地の底からドドドドドドド……と低い音が聞こえてきて、それはやがて地震に変わった。
「うああああっ」
「カイン捕まれ!}
激しい揺れに、アイフィアの腰に捕まる。
湖から、蒸気が吹き上がり、湖岸の雪と氷は一気に解けた。
「よーし、あったまったでしょ」
水面にズカズカと黒百合が入っていく。
「冷たくないわよ」
恐る恐る指をつけると、たしかに夏の海のように温かい。
「……本当だ」
「雪を勝手に溶かして大丈夫なのか」
「夜になればまた冷え込むし、雪も降るからもとに戻るわよ。それが自然というものよ」
「さ、カイン。あなたが潜って、ルビーを探すのよ」
「……わかった」
これを、とハイラがキラキラと光る石のようなものを差し出した。
「これは?」
「竜のうろこだ。竜の力で水の中でも行きができるようになる。オレ達も手伝うから」
ハイラとメキラは竜のうろこを首にかけ、鎧を脱ぎ、湖に入っていった。
「私も」
「アイフィアは待っていてくれ。万が一のことがアレばなんにもならない」
「カイン、そういうわけにはいかない。私のことだ」
「あなたには生きてほしいから」
マントを外し、端をナイフで切り取った。竜のうろこに巻きつけて、ペンダントにする。
なんだってするさ。
「行ってくる」
竜のうろこは水中に潜れるアイテムです。




