第109話 偽物
国宝のルビーを偽物だと言う黒百合の女神。
「このルビーが偽物だと?」
「話しかけてみたけど反応がなかったわ。つまり偽物よ」
アイフィアとレイフィアは真っ青になった顔を俯け、真っ赤なルビーを覗き込んだ。
「あなたたちの先祖が、前の女王とその子を殺しただけでなく、王権の証であるネックレスまで偽造したのね」
にこにこと笑いながら、黒百合の女神はヴィルガー王国の不正をさらけ出した。
確かに、王家のネックレスなど、普段は宝箱に仕舞われて、民が見ることはない。バレはしないと高を括っていたのだろう。わずかに青みを帯びた赤色は、ルビーにしか見えない。実際は別の石なのだろう。
「アイフィアがやったわけではない。それなら本物を探そう」
「探すだって……?」
「そうだ。そのままなら呪いで3ヶ月後には死ぬ。やれることは全部やろう」
「決まりね」
面白そうねと、黒百合の女神が手をパンと合わせた。
「女神よ、お尋ねしたいことがあります。呼びかけたと仰せでしたが、お知り合いなのですか」
ハイラが、その場にいた全員の疑問を代表して尋ねる。
「ええ。私のお姉さまだもの」
「……お姉さま……? この石が、ですか」
「このネックレス自体は偽物よ。本当の名前はラトナ。金銀銅ダイアモンド、サファイア、エメラルド、ルビー、の七姉妹よ」
「あなた様がいないようですが」
「私はラトナ姉さまがいなくなってしまったから、後から追加されたのよ」
末娘、という意味合いだろう。
そのネックレスをどうやって探すかと話題は移り、額を寄せて語り合う。
「国王よ、カイラース山に、湖や川はあるか?」
とメキラが尋ねた。
「子供を殺して宝石を破棄したなら、火口、湖、滝壺だろう。死体は顔を潰せばいいし、石なら沈む」
「火口は雪に覆われていて、ここ百年は噴火していない。中腹にマーナサローワル湖がある」
「ヴィルガー国王。そのカイラース山は一般人……例えば、盗賊や山賊の類が入り込むことは可能ですか」
とハイラ。
「いいや、入り込まないな……。岩山で、村があるわけでもない。神が降臨する山と言われ、聖地になっている。もっとも見れば判るが、かなり急勾配の山だ」
地図を広げ、ここだと指差した。
「なるほど……。よし。女神よ、本物のネックレスが、お姉さまだというのであれば、もし、近くに行けば呼びかけてもらうことは可能ですか」
「そのぐらいしてあげるわよ」
ハイラとメキラは頷き、食料の用意をアイフィアに頼んだ。
「オレの竜で行こう」
「竜!?」




